■チェル野ブイ美4

「テニスの放射能」第四話

(便津さんが)(便津さんのテニスが見られるわ)(あの小娘、死ぬわよ)
「じゃ、私のサーブからね……そらっ!」
ドブスッ!
「み、見えない!」
(出たわ、便津さんの亜光速サーブ)(あの子ったら一歩も動けないわね)(当然よ! あのサーブを返せるのは部長ぐらいのものだわ!)
「どうしたのかしら、あたしたちの球は遅いんじゃなくって?」
「ぐっ……」
「そらっ!」
ドブスッ!
「見えない……! どうして、どうして見えないの!!」
「アーッハッハッハッハ! 当然よ! まだ私は一球も打ってないもの!!」
「じゃあ、あの音は」
「アフレコよ!」
「!!!!」
「アーッハッハッハッハ!」

………。

「ふう、私も大人げなかったわね、そうだ、あなたにハンデをあげるわ」
「なっ、ハンディ……!」
「そうよ、勝負は拮抗しないと面白くないもの、どんなハンディがお望み? 片手? 片足?」
「……じゃあ、お言葉に甘えて……。
『呼吸』を先にした方が勝ちよ!!」
(なんですって!)(呼吸!?)(あの子、ただものじゃない)(便津さんは受けるのかしら)(私たちは新たなテニスの黎明に立ち会ってるのかもしれない……!)
「受けて立つわ、つまり、それ以外のときは全部私の勝ちということね」
「!! (大丈夫、大丈夫よブイ美、呼吸さえすれば勝てるんだから、そう呼吸さえすれば……でもどうして、勝てる気がしない!)」
「さあ、試合再開よ」
「(呼吸)(呼吸)(呼吸)(息を吸って…吐く)(吸って……)(吐く)(吐く?)(息を吸わなきゃ、吐くのが先?)(吐く)(吐、吐、吐く)」
ヒュー…ヒュー…ヒュッ
「ブイ美!!」
「いけない、呼吸困難に陥ってる!」
「アハハッ! 普段やっていることを意識すればするほど人間はそれが出来なくなるのよ!
策士策に溺れるといったところね!」
「負け……た……」

2006年04月15日 15:11