「テニスの放射能」第八話
「というわけよ!」
「キィィィイィ! 私のサーブによもやそのような欠陥があるとは!」
「とにかく、これであなたの亜光速サーブはもう使えない!」
「くっ、小娘がっ、必殺技の一つや二つ、破ったくらいでいい気におなりでないよ! 天才ってのはね、天才ってのはね! その場に応じて新たな必殺技を生み出すものなのよ! くらえ! 新・亜光速サーブ!」
ドブスッ!
「なっ! これは!」
「オーッホホホホホホ! どうかしら新・亜光速サーブの味は!」
(さすがだわ便津さん)(瞬時に新しい必殺技を生み出してしまうなんて)(まさにビッグ・必殺技館!)
「もう一発いくわよ、そぉらっ!」
ドブスッ!
「こっ、このサーブは! 新・亜光速サーブとはまさか!」
「気づいたようね! そう、名前を変えてみただけよ! あなたは自分の中にある新・亜光速サーブに踊らされていただけ!」
「卑怯!」
「卑怯? 卑怯ですって? 口を慎みなさい! これぞまさに天才の機略! 現にあなたは新・亜光速サーブを返せなかった……。私は何も努力をしてないのも関わらずね!
努力なんて凡人の徒労よ! 努力なんて愚者の逃げ道よ! 努力なんて敗北の言い訳よ!」
「違う! 努力は……努力は……! 努力こそ真の勝利を生むのよ! 努力せずに得た勝利なんて、偽者だわ!」
「ハハハ! 凡人らしい詭弁ね! いつでも! どこでも! 好きなときに! 全力疾走できない凡人の考えそうなことだわ!」
「歩く努力をしないものが、走れるものか! 見せてあげるわ、私の努力によって生み出された必殺サーブ!」
「受けてあげる! そして砕いてあげる! あなたの努力とともにね!」
「喰らえ! ギャラクシー・インパクト・サーブ!」
ドブスッ!
「何ッ!?(見えなかった!!)
あなた……まさか!」
「そう、どうかしらご自分の亜光速サーブの味は!」
(あの新入生!)(一目見ただけで便津さんの亜光速サーブを!)(しかも名前まで変えて!)
「ふんっ、小賢しい盗人め! 天才の知恵を借りないと何もできないのね! ハハハ!」
「勘違いしないで……今のはただの点数稼ぎ、本当のギャラクシー・インパクト・サーブは、これからよ!」
(なんてレベルの高い試合かしら!)(鳥肌が止まらない!)(何よりあの二人)
(((まだ一つもボールを使っていない!!)))
「さあ、見せてあげるわ……本当のギャラクシー・インパクト・サーブを!
くらええええええ!!」
(!!!!)
(何も起らないわ)(でも確かにスマッシュの音は聞こえたのに)(ボールはどこ!?)
「…ハッ、ハハハッ。何よ、こけおどしじゃない! 所詮凡人は凡人……「あ、あれを見て!」「何あれ!」「どうなってるのあれ!」
何ッ!? あれ、は……もしかして……?」
(なんてこと!)(こっちに来るわ! 近づいてる!)(月が! 月が動いてる!)
「まさか、これはあの伝説の……!
便津さん、逃げなさい!!」
「何よ。慌てふためいちゃって……天才が、天才が逃げるなんて、そんなみっともない真似、できる、わけ、ない、じゃない!!」
(受け止めた!)(ラケット一つで月を!)(でも押されてる!)
「こんな、こんなサーブぐらい、か、返せ、返せないわけが!!」
(無理よ……便津さん!)
「返せないわけが、ないいい!!」
「なっ……!」
(う、打ち返した!)(つ、月が)(月が元の位置に戻っていく……)
「アウト!
勝者、チェル野ブイ美!」
「やったぁああーーー!」
「やったねブイ美!」
「負けた……天才の私が……負けた……」
「おめでとう、ブイ美さん」
「部長!」
「そして、テニス部にようこそ!」
「ありがとう! ゲノ夢部長!
あ……便津さん……」
「今回は負けとくわ、でも、でも次は絶対に勝つ!」
「……はいっ!」
(素晴らしい試合だったわ)(そうね、でも)(結局、ボール一個も使わなかったわね)
??「あたしは諦めないからね、ブイ美!」
2006年04月15日 15:15