■卒業論文

卒業論文。

全く進んでいない。全く進んでいないのだ。それこそ一歩も動かずに僕の卒業論文はスタートラインで棒立ちし続ける、そう、まるで何かを待ち続けているかのように。卒業論文は時折考える「自分はなぜここにいるのだろう」答えはただ風に吹かれている。

卒業論文が物心ついたとき、すでに母は亡く、父親も実の父親ではなかった。唯一、彼の慰みとなった少年も、いつしか北の方へと行ってしまった。卒業論文はずっと独りになった。彼を懐かしむ人も、彼を慈しむ人も、彼を愛する人もいないまま卒業論文は一人ぼっちだったのだ。

ある日、ツバメが彼の肩に止まって言った。「やあ、何をしてるんだい?」「わからない」卒業論文は答えた「わからないだって、おかしなやつだな」ツバメは飛んでいってしまった。

ある日、犬が卒業論文の足に小便をひっかけながらいった。「やあ、何をしてるんだい?」「わからない」卒業論文はしたたる尿を黙って見ながら言った。「へん、きどっちゃってさ」犬はどこかへ歩いていってしまった。

ある日、乾いた尿の上に苔が生えた「やあ、何をしてるんだい?」「わからない」「わからないだって? 僕と同じだ!」卒業論文に友達が出来た。

ある日、ブルドーザーがやってきて言った。「やあ、君が何をしてるかしらないけど、もうじきここにパレスが建つから、どいてくれないか」卒業論文は「人を待っているから」と答えた。ブルドーザーは卒業論文ごと地面を平にしてしまった。

卒業論文がたいらになった上に苔がいっぱい生えた。

その苔は、健康にとても良くて、みんながむしっていってしまった。

卒業論文はまた独りになった。


僕はそんな卒業論文のことを考えると、涙が止まらなかった。僕はこの卒業論文の話が嫌で嫌でしかたなかった。卒業論文なんか、大嫌いだ! 死ね!

2006年05月06日 19:40