■愛情一本

自転車。

僕には自転車運というものがないらしい。購入した自転車がの無くなる理由トップ5ぐらいが「盗難」である。僕のもとで天寿をまっとうした自転車など記憶にない。自転車にとってはジョーカーのような僕だけども、僕自身は自転車が大好きだし、どこに行くにも自転車に乗っていく。許されるなら雪中行軍も自転車で行きたいし、フルマラソンも自転車で参加したい。

まあそんなことで自転車を酷使するせいもあって、ちょくちょくブレーキバーが重力に負けるぐらい緩くなってたり、プロをうならせるほどフレームを曲げたりする。ギアが一番軽いやつから戻らなくなったこともあった。あんまりコイツと遠いところに行きたくないという自転車たちの叫びだろうがそうはいくか! とサイクルショップへ。

凄く気の良いおっさんが一人でやってるサイクルショップで、よくお世話になる。娘さんと犬がいつも店番をしており、呼ぶと奥からおっさんが出てくるというセコムだ。娘さんと犬、という五感の淫靡さにも負けずに相変わらずおっさんを呼ぶ。お、また来たねという顔。「すいません、あのう、ちょっとブレーキがゆるくなってて」

自転車を修理するコツとして、必ず修理してほしい箇所を一つだけ言うこと、というのがある。これでサイクルショップの格が測れるといっても過言ではない。「○○を直してください」といって、ほんとにそこしか直さないショップは二流。一流のサイクルショップはサービスとして「空気を入れる」「油を差す」「ハンドルの歪みを直す」「車体の埃を拭いてくれる」といったことまでしてくれた挙句お値段は最初に頼んだ分だけ。ここまでやって本物の自転車愛というものが感じられるというわけだ。頼まれたことしかできないサイクルショップではいずれロボットにとってかわられる。そしてそのロボットが外的刺激と内的不確定要素で反乱を起こし、周りの自転車をどんどん吸収した挙句巨大化。その大きさは山を超え、天を覆い、やがては巨大な車輪に地球がテニスボールっぽくハメられいいように公転させられるのだ。

そういった悲劇を防ぐためにも、良質なサイクルショップだけ残そう、ということだったが余談が過ぎた。そうこうしているうちにおっさんはてきぱきと作業を終え、僕はブランニュー自転車にまたがり、風を切る。車輪がスムーズに動く、ブレーキの感度がよくなっている。万全のコンディションに回復している。これならどこへだっていけそうだ、ありがとうおっさん!

っていう自転車が、盗まれた。

2006年06月24日 21:45