■GOSSO-SAN

近くに99ショップという何でもかんでも九十九円で売ってしまう地獄のソルジャーがやってきたというので、足を踏み入れてみた。確かに店内の値札は一部除いてあれもこれもが九十九円。「きゅうじゅうきゅう」などと打つより「つくも」と打った方が九十九が容易に変換できるほど九十九に信頼を置いていない僕は"99"の右側の"9"が微妙に小さくなっており、レジに持っていけば「馬鹿め! 九の九乗円のお買い上げになりましてよ!」と天文学的小銭を要求される可能性さえも考慮していたのだが、これがこれが、九十九円だと。

思わぬ安買いに湯気をつむじから吹き上げながらパスタソースを買いも買ったり五袋。しかも一袋で二人前というこのお徳用、ブラジルチームがアポなしで押しかけてきてもロナウジーニョ以外にはパスタを振舞える計算になる。喜び勇んで帰宅し、早速ひとっ袋浴びようかと戸棚を開けるがパスタが、無い。

いつ間にか食べてしまったのかいやいやいやパスタ管理には自信がある。パスタを切らすなんてことは僕に限ってありえないはずなのだ、しかし事実パスタが無い。おそらく毛利あたりの元就が家臣に「okay guys,watch this」とかいいながらパスタを重ねてぽっきんぽっきん折っていったに違いない。矢とパスタの違いもわからん田舎大名が、ちょっと背伸びさせたらすぐこれだ! しかし折れたパスタを持ってこられても困るのは僕なのでその件は不問にするとして、とにかく今はパスタの代替品を探すことが先決だと戸棚に視線を戻す。うどんと目が合う。

いや、わかっている。お前はうどんだ。百歩譲ってカレーに浸かるのはよしとしても、パスタソースをぶっかけられることなど本意ではないだろう。君がどんな思いでうどんという職業についたかは知っている。冬寒い朝、君は母親が握ってくれたおむすびとお守りを携えてここ大阪の地に一玉咲かせようとして出てきたのだろう。間違ってもパスタなど! パスタなど! しかしわかってくれ! 僕には君しかいないんだ!

瞳を堅く閉じ沸騰した湯にうどんを放り込む、ぐつぐつと断末魔が聞こえ、湯の中で無念のワルツを踊るうどんが見える。ほどなくして諦めたかのようにざるへと横たわる彼らを器へ移し、ミートソースをかける。涙が。涙が、止まらない。まるで血の海だ。ミートソースにまみれたうどんは、今、まさに死んだのだ! 天に召されるかのように立ち上る湯気が文字を象り僕に語りかける

旅に病み
 つひはこの身の
  アルデンテ

濃いつゆにつかることを夢見ていたうどん! さぞ無念だったろう。甘酸っぱいミートソースの匂いが彼の想いを代弁しているように響き、僕の五感は敏感にそれを捉える。次々と流れ込んでくる彼の無念、きつねうどんの父と冷やしとろろうどんの母の下に生まれ、いつかはでっけぇうどんになることを夢見ていた彼の想いが五臓六腑につるつるとパスタには無い素晴らしいのどごしで意外とイケるぜごっそさーん!

2006年10月20日 22:07