授業で地球のできるまでを習った。
信じられないことかもしれないけれど、昔の地球は路側帯も無い荒れ果てた地形だったらしい。当然ローソンもサンクスもあるわけないし、記録メディアもフロッピーディスクか岩に直接彫るぐらいしかなかった時代だ。そう、三十万円貯まる貯金箱が発明されるもっとずっとずっと昔のお話。地球は巨大な巨大な岩の塊のようなもので、生命など存在しなかったらしい。
しかし公衆電話から指紋が無くなるまでぴあに電話しまくった甲斐もあって、奇跡的に太陽から遠すぎず近すぎないSSS席を予約することに成功。液体の水が存在する太陽系唯一の惑星となり、生命が誕生した。しかしラッキーは続くものではない、そう、その質量が生む重力ゆえ、多くの隕石を惹きつけてしまったのだ。過去地球に衝突した隕石の大きさは、石ころのようなものから直径数百kmに及ぶ巨大なものまで様々だったらしい。
こういうと、なんだか地球が気の毒に思えてくるが火星などからしたら「いいな地球ばっかり、隕石落ちてよ」といった気分だろう。惑星にとってつきあった隕石の数は、ステイタスなのだ。しかも地球は唯一生命のある星「高重力、多水分、有生命」の三拍子そろったイケメン惑星であり隕石からしてみたらいくらでかくても硫酸の雲に覆われたオタクっぽい木星などより、地球と付き合いたいと思うだろう。しかし多くの惑星は地球に辿り着く前に大気圏で燃え尽きてしまう。近寄りがたいオーラがある、と、多くの隕石は地球を敬遠した……
「でしょ?」
「う……う、うん」
「でも、だからってこのままで良いわけ?」
「うん、だって地球さんには月が」
「アレはたまたま周回軌道に乗っただけじゃないの! あんなニキビ面なんかよりあんたの方が絶ッッ対イケてるって!」
「でも……あたし直径が数百キロもあるデブだし…」
「もおー……ほんっとに地球さんのことになると奥手なんだから」
「そうそう、女だったらどーんと体ごとぶつかっていかなきゃ!」
「え、あっ! め、メテ男先輩!」
「まだぐじぐじやってんのか? ほら、いきなよ、きっと受け止めてくれる」
「メテ男先輩……」
「何、駄目だったら、俺が嫁にもらってやるよ!」
「ありがとう……先輩、あたし、やってみる!」
「おう、がんばってな!」
「いいの? メテ男先輩、あの子のこと」
「いいんだ、いいんだよ」
「男って、ほんと、馬鹿ばっかり」
「それが、いいんだよ」
「わかんない」
(ありがとうメテ男先輩……あたし、前に進んでみる。地球さん、太陽系の中で、あたし、あなたが一番好きです! あたしの気持ち、受け止めてください!)
全ての想いを込めて数百キロの隕石が地球にぶつかる。その衝撃で、高さ数十キロという大津波が音速で世界を襲う。しかし津波はあくまでおまけである。数百キロの隕石がぶつかったためめくれあがった地殻が「地殻津波」となって怒涛のように押し寄せてくるのだ。地殻津波によって日本列島は丸ごとめくれ上がり、またその高さは大気圏外にまで達し、さらに、大気圏外にまで上昇した地殻は再度地球の重力に引かれ「二次隕石群」として地球に降り注ぐのだ。
しかし悲劇はこの程度で終わらない。隕石衝突地点には直径四千キロ超の巨大クレーターが発生し衝突地点の温度は6000度にまで上昇。この巨大な熱量は新たな死神を誕生させる、そう、岩石蒸気である。岩をも蒸発させるその温度実に1500度! 岩石蒸気はまたたくまに膨張し、地球全土を覆い海はたゆたう間もなく蒸発、塩の大地へと変化するがそれも束の間、岩石蒸気は「塩さえも蒸発させるのだ」。木々は1500度という規格外の熱量に自然発火し生命は瞬きする間に消滅する。隕石衝突からわずか三時間後、地球はかつての水の惑星からマグマと熱波に覆われた死の惑星へと、姿を変えたのであった。
「あの子ったら、地球さんとアツアツじゃん!」
笑いごとではない。
2006年10月25日 22:45