■ディズニーランドへ

「あのーこれはかなり恥ずかしいことなんだけども、俺さ、ディズニーランド行ったことないのよ」
「マジで!? え、お前何歳だっけ」
「今年二十三歳」
「ディズニーランド行ったことないのに!?」
「いや関係ないだろ」
「だって、いないだろその歳でまだ行ったことないやつ」
「まあ確かに、皆行ってるよね」
「行きたいと思ったことはないの? 行かずに正気を保っていられるの?」
「どんだけだよ。たかが遊園地行かないだけで情緒不安定にならねーだろ」
「いやいやいや、人間の三大欲求じゃん」
「嘘つけよ。三大欲求は食欲と性欲と睡眠欲の三つだろ」
「違うよ。性欲とミッキー欲とマウス欲の三つだよ」
「何で三つのうち二つも占めてんだよ。ミッキー欲とマウス欲の違いって何だ」
「ミッキー欲がディズニーランドに行きたいけど眠いなあ、という欲求」
「マウス欲は?」
「ディズニーランド行きたいけど、腹減ったなあ」
「食欲と睡眠欲じゃねえか結局。勝手に本能をディズニーでコーティングするなよ」
「わからずやだなあ。じゃあ、俺がお前にディズニーランドの良さを説明してやるよ」
「ああ、じゃあ頼むよ」

「いらっしゃいませこんにちわー!」
「コンビニクオリティの接客だけど大丈夫かな、大人一枚」
「かしこまりましたー、こちらチケットの方温めますかー?」
「何の気遣いだ。秀吉リスペクトもほどほどにしろよ。普通でいいからさ」
「ご一緒にポテトはいかがですかー?」
「いらないよ。チケットだけくれってば」
「かしこまりました少々お待ちくださいー」
「はいはい」
「お待たせしましたチキンナゲットのお客様ー」
「え」
「チキンナゲットのお客様ー、お待たせしましたー」
「すいません、頼んでないです。チケットを」
「チキンナゲット略してチケットとさせていただいておりますが」
「ディズニーランドの入り口でチキンナゲット頼む奴がどこにいんだよ。
チケットっつったらチケットだよ、入場券のことだよ」
「あ、その発想はございませんでしたー」
「今までみんなナゲットもらって納得してたのか」
「でしたらお客様、チケットの方少々お時間かかりますので」
「ええ?」
「番号札をお持ちになって中でお待ちくださーい」
「中、中って?」
「ディズニーランドの中でお待ちくださーい」
「入って良いのかよ」
「できましたらお呼びいたしますので、チキンナゲットをがっつきながらお待ちくださーい」
「いやたぶん取りに来ないけど、入って良いなら入るよ」

「やあ少年!」
「……」
「少ー年! 君だよ君!」
「あ、僕ですか」
「そうだ君だよ、冷めたチキンナゲットを持った少年!」
「まあ温めなかったしな」
「今日はディズニーランドへようこそ! 楽しんでいってくれよ!」
「あの、誰ですか」
「俺かい? 俺は名乗るほどのマウスでもないさ!」
「ミッキーマウスか。想像とかなり違うな」
「もしかして君は初めてのディズニーランドかい?」
「あ、はい」
「その年で?」
「ええ、まあ」
「ハハハッ! じゃあそんな厄介な客のために用意されたマニュアルどおりに、愉快な仲間たちを紹介するよ!」
「本音出てっぞ着ぐるみの間から」
「まずあそこでうなだれてるのが、犬のグーフィーだ!」
「はしゃげよ勤務中ぐらいグーフィーよ」
「そしてあそこで頭を抱えてるのが、ミニーマウス」
「おい夢の国よ」
「そしてあそこで足を抑えて転げまわってるのが、ドナルドダックだ!」
「何で全員病んでんだよ。子供達引くだろ」
「お、ドナルドがこっちを見てる、手を振ってあげよう!」
「何でこっちが愛想ふりまかなきゃいけないんだ」
「あ、チキンナゲットは隠した方がいい」
「材料アイツかー」
「どうだい、お世辞にも楽しいだろう?」
「着ぐるみが本音に負け始めてるよ」

ぴんぽんぱんぽーん
『お客様のお呼び出しを申し上げます。先ほどチケットをお買い上げのお客様、至急入り口までおこしください』

「すいませんお待たせしました。こちらチケットになりますー。夢の国をお楽しみくださいー」
「いやもう、帰ります」

2006年11月06日 19:17