■ウンストッパボ

「いじめによる自殺が相次いでいるらしいけども」
「うん」
「何で止められないかね、先生ともあろうものが」
「いや自殺を止めるのは難しいと思うよ」
「いや簡単だよそんなの」
「じゃあ俺自殺しようとするから、お前止めてみろよ」
「いいよ」

「くそうもういじめには耐えられない、死のう」
「あ、おい!」
「しまった、見つかった!」
「何やってるんだ!」
「来るな!」
「もう休み時間は終わってるぞ」
「事の重大さ! 状況見ろよ、自殺しようとしてんだろ!」
「あ、お前、自殺だと! 馬鹿なことは止めろ!」
「来るな、来たら……」
「来たらどうするつもりだ」
「来たら、飛び降りてやる!」
「よし、じゃあ先生は階段で降りるから先に教室行っててくれ」
「近道じゃねえよ! 死ぬために飛び降りるんだよ!」
「死ぬだって、何で死のうとか思うんだ!」
「先生は知らないかもしれないけど……俺、いじめられてたんだ」
「なんだって」
「毎日無視されて、殴られて、弁当捨てられて、もう耐えられないよ!」
「お前……」
「だから死ぬんだよ! 死んで、俺をいじめた奴を全員呪い殺してやる!」
「馬鹿野郎! 自分勝手なことばかり言いやがって!」
「……」
「お前の命がな、お前だけのものだと思ったら大間違いなんだよ!」
「先生……」
「お前を必要としている人間は山ほどいるんだよ! 第一お前が死んだら、皆は誰をいじめればいいんだ?」
「俺を心配しろよ! 何でいじめっ子目線での説得だ!」
「それにお前、東高校に行きたいんじゃなかったのか?」
「何でそんなこと知ってんだよ」
「先生は何でも知ってるさ、お前が東高校にずっと憧れてたことも」
「……」
「それがうっかりバレて、さんざん馬鹿にされてたことも!」
「じゃあ止めてよねそん時!」
「考え直せ! 自殺なんかしたら、内申書にひびくぞ」
「死んだら関係ねえだろ内申書! ゾンビに受験資格なんかねえよ!」
「東高校に行きたいって、そう思わないのか!」
「もう関係ねーんだよ」
「東高校のほうが校舎も綺麗だし」
「だから関係ねーんだってもう」
「屋上も高いんだぞ?」
「あらま絶好の自殺スポット、オススメてんじゃねえよ! もう死ぬ絶対死ぬ!」
「待て! 待て、聞いてくれ!」
「うるせえ! 俺はもう死ぬって決めたんだ!」
「まあいい、死にながら聞いてくれ」
「難しいこと言うなお前! 微分積分も裸足で逃げ出す難易度だぜ」
「先生な、実は昔、いじめられてたんだ」
「何を今さら」
「お前と同じように、無視されて、殴られて、させられて、させられて、それ以外にも、させられて」
「後半何させられてたのかわかんねーよ」
「だからお前の気持ちはよくわかるんだ!」
「嘘つけよ! じゃあ俺がどんな気持ちで死のうとしてるかわかんのかよ!」
「わかるさ! 先生だって最初は気持ちよかった!」
「俺はのっけから辛かったんだよ! 何いじめられて目覚めてんだ気持ち悪いな!」
「でも先生は負けなかったぞ! 立ち向かったぞ!? お前みたいに逃げなかったぞ!」
「……」
「そしたらな、ある日、ぱっったりと、いじめがなくなったんだ」
「え……?」
「それが、お前が入学してきた日だ」
「俺のおかげじゃねえかよ! 何いじめのおさがりくれてんだよ!」
「だからお前が死んだらまたあいつらが俺をいじめるんだよ!」
「うるせー! お前先生のくせにいじめられてんじゃねえよ!」
「考え直せ! 考え直してくれ!」
「もういいよ死ぬよ! あばよ!」
「お前先生に向かってその口の利き方はなんだ!」
「おせーよ!」

2006年11月15日 19:20