「いじめによる自殺が相次いでいるらしいけども」
「うん」
「何で止められないかね、先生ともあろうものが」
「いや自殺を止めるのは難しいと思うよ」
「いや簡単だよそんなの」
「じゃあ俺自殺しようとするから、お前止めてみろよ」
「いいよ」
「くそうもういじめには耐えられない、死のう」
「あ、おい!」
「しまった、見つかった!」
「何やってるんだ!」
「来るな!」
「もう休み時間は終わってるぞ」
「事の重大さ! 状況見ろよ、自殺しようとしてんだろ!」
「あ、お前、自殺だと! 馬鹿なことは止めろ!」
「来るな、来たら……」
「来たらどうするつもりだ」
「来たら、飛び降りてやる!」
「よし、じゃあ先生は階段で降りるから先に教室行っててくれ」
「近道じゃねえよ! 死ぬために飛び降りるんだよ!」
「死ぬだって、何で死のうとか思うんだ!」
「先生は知らないかもしれないけど……俺、いじめられてたんだ」
「なんだって」
「毎日無視されて、殴られて、弁当捨てられて、もう耐えられないよ!」
「お前……」
「だから死ぬんだよ! 死んで、俺をいじめた奴を全員呪い殺してやる!」
「馬鹿野郎! 自分勝手なことばかり言いやがって!」
「……」
「お前の命がな、お前だけのものだと思ったら大間違いなんだよ!」
「先生……」
「お前を必要としている人間は山ほどいるんだよ! 第一お前が死んだら、皆は誰をいじめればいいんだ?」
「俺を心配しろよ! 何でいじめっ子目線での説得だ!」
「それにお前、東高校に行きたいんじゃなかったのか?」
「何でそんなこと知ってんだよ」
「先生は何でも知ってるさ、お前が東高校にずっと憧れてたことも」
「……」
「それがうっかりバレて、さんざん馬鹿にされてたことも!」
「じゃあ止めてよねそん時!」
「考え直せ! 自殺なんかしたら、内申書にひびくぞ」
「死んだら関係ねえだろ内申書! ゾンビに受験資格なんかねえよ!」
「東高校に行きたいって、そう思わないのか!」
「もう関係ねーんだよ」
「東高校のほうが校舎も綺麗だし」
「だから関係ねーんだってもう」
「屋上も高いんだぞ?」
「あらま絶好の自殺スポット、オススメてんじゃねえよ! もう死ぬ絶対死ぬ!」
「待て! 待て、聞いてくれ!」
「うるせえ! 俺はもう死ぬって決めたんだ!」
「まあいい、死にながら聞いてくれ」
「難しいこと言うなお前! 微分積分も裸足で逃げ出す難易度だぜ」
「先生な、実は昔、いじめられてたんだ」
「何を今さら」
「お前と同じように、無視されて、殴られて、させられて、させられて、それ以外にも、させられて」
「後半何させられてたのかわかんねーよ」
「だからお前の気持ちはよくわかるんだ!」
「嘘つけよ! じゃあ俺がどんな気持ちで死のうとしてるかわかんのかよ!」
「わかるさ! 先生だって最初は気持ちよかった!」
「俺はのっけから辛かったんだよ! 何いじめられて目覚めてんだ気持ち悪いな!」
「でも先生は負けなかったぞ! 立ち向かったぞ!? お前みたいに逃げなかったぞ!」
「……」
「そしたらな、ある日、ぱっったりと、いじめがなくなったんだ」
「え……?」
「それが、お前が入学してきた日だ」
「俺のおかげじゃねえかよ! 何いじめのおさがりくれてんだよ!」
「だからお前が死んだらまたあいつらが俺をいじめるんだよ!」
「うるせー! お前先生のくせにいじめられてんじゃねえよ!」
「考え直せ! 考え直してくれ!」
「もういいよ死ぬよ! あばよ!」
「お前先生に向かってその口の利き方はなんだ!」
「おせーよ!」
2006年11月15日 19:20