■リアル寿司

寿司屋。

「へいらっしゃい!」
「あの、コハダください」
「あいよっ! お、お客さん学生さんかい?」
「あ、いや、違います」
「なるほどっ、じゃあ中学生さんかい?」
「学生でひとくくりにしてくださいよ」
「まだ若いのにうちの店に来るたぁ、大した眼力だ!」
「そうなんですか?」
「おうよ、うちの店はとことん味を追求してるからねぇ」
「へええ」
「素材にこだわり、握りにこだわり、シャリにこだわり」
「凄いですね」
「おうっ! そんじょそこらのカレー屋には負けねぇよ!」
「住み分けてください、そことは競争しないでください」
「へいお待ち、まるでコハダっ!」
「え、あの、まるで?」
「おうよ、うちの店はリアルさを追求してっからね、どうでい、まるでコハダだろ?」
「これ、コハダじゃないんですか」
「おうおうおう、よおく見てみな、形、香り、味、全部とっても、まるでコハダじゃねえか!」
「いやコハダ出してくださいよ、まるでコハダとかじゃなくて」
「お客さん、うちのリアル寿司に何か文句があるってのか?」
「リアル寿司?」
「おう、他の何よりもリアルな寿司だぜ?」
「まるでコハダだと、偽者じゃないですか、ちゃんと寿司出してくださいよ!」
「もう堪忍袋のゴム切れた! そこまで文句があるなら出てってくんな!」
「ハイカラな堪忍袋ですね。いや、すいません、ちょっと言いすぎました」
「おうよ!」
「じゃあ次は、あの、マグロください」
「あいよっ!
へい、逆にマグロ!」
「いや逆にって」
「もーう! 堪忍袋の栓抜けた!」
「早ええよ、ちょっと言われるってわかってんじゃねえか」
「そこまでコケにされちゃあ、おいらも黙っていられねえ!」
「いやだって、まるで、とか、逆に、とか言われたら……」
「おうおうおう、なら文句のねえリアルを出してやんぜ!」
「ああ、あるんですか」
「当ったり前田のブラウザーよ!」
「前田explorerですか」
「こいつを見て腰抜かしやがれっ! そらっ! 正真正銘のカツカレーお待ち!」
「寿司出せよ!」
「飯の上に具が乗ってんだ、何か文句があるってのか!」
「文句しかねえよ! 見ろよあの醤油とわさびの悲しそうな顔!」
「さっきからうるせえ客だな! 食ってから文句言いやがれ!」
「食ってからって、どうせカレーの味しか……ぱくり」
「どうでい」
「……まるでコハダだ! 凄い! このカレー、まるでコハダだ!」
「そうだろう!? そうだろう!? うちの店はすげえだろう!」
「大将!」
「おう!」
「死ね!」
「おう!」

2006年12月01日 09:30