■ご本人登場

レストランなんかでバイトをしていると色んな客が来るもので、それでも僕らは分け隔てなく接客しなきゃいけない。中には変な客もいるけど、それでも平静に対応しないといけない。しかし今日来たカップルはその中でも群を抜いていた。

とりあえず女は桃井かおり。ファーのついた黒いレザーコートに、黒いスカート、加えてけだるそうな眼差しと低血圧な喋り方はまさに桃井かおり。いや、まあ厳密に顔を見るとそこまで似ているということでもない。桃井より目はぱっちりしてるしアゴはとがってるし、右側の頬にはブルースウィリスが止め損ねた隕石が被弾したせいだと思われるニキビ痕が縦に点々と、なるほど岩手県特有のリアス式ほっぺは波が細かく砕けて養殖カキが良く育ちそうだなコンニャロウ、といったニキビの川。しかしそれでも、あれは桃井かおりよりも桃井かおりだと確信せざるを得ないのだ。偽者はむしろ桃井かおりの方なんじゃないかとさえ思う。

説明しにくいのだけど、桃井かおりというのは特定の人物を指すものではなく一種の概念なんじゃないかと思う。ふくらませると桃井かおりの形にふくらむガムを百人に試してもらっても、たぶん八割がた桃井かおりじゃなくてこの女の形にふくらむんじゃないか。いや、そんなガムはないんだけど。

本来ならこの桃井だけでお腹が黄色いハンカチで一杯になるところだが、またこの彼氏の方が椎名桔平そのもの。デコといいセンター分けといい桔平そのもの、いや、むしろ椎名桔平ってのは人物を指すのではなくて概念を指すもので、ふくらますと椎名桔平の形にふくらむガムをふくらませたとしたら、いやそんなガムはないんだけどそんぐらい似てる。

いやいやいや似てるって言い方もおかしい本人より本人なんだから、あー、もう説明しにくいなこれ、とりあえず椎名桔平の隣にこの男を並べたらぷよぷよの理論で消えるじゃんか、そしたら椎名の上に積んでた桃井が落ちてきて連鎖が完成して上からお邪魔桃井かおりとお邪魔椎名桔平が降って来るじゃんか、でもそれは芸能人の方じゃなくて、俺の目撃した方が降って来るっていうことなんだけど。

いやだからそんなゲームはないよ。ないけどさ。

2006年12月05日 18:08