自転車が壊れた。
パンクとかそういうのではなくて、何だかよくわからないけど後輪タイヤのゴムがべろーんってなっていた。相当伝えにくいし、相当わかりにくいと思うけどタイヤのゴムが、とにかくべろーんとなっているわけだ。タイヤには本来チューブがあって、そしてその上にゴムがあるわけなのだけども、今回はそのゴムに当たる部位が極めて端的に言うならばべろーんとなっていたのだ。
これはもうべろーん以外の表現が見当たらない、世界中の比喩自慢を集めてもこの状態に「べろーん」以外の言葉を当てはめることは不可能だろう。そういう意味ではフェルマーの最終べろーんとして世紀にわたって比喩者たちが挑戦し続ける関門になってほしいという僕の願いも裏腹に相変わらずゴムがべろーんとしている。べろーん。べろおーん、ではいけない、べろーん。おそらくこの状態を見た原始人が「べろーん」という言葉を作ったに違いない。
とにかくべろーんとなっているものは仕方ないので、修理に持っていく。自転車屋の軒先まで自転車を持って行き、奥のおっさんを呼ぶ
「すいませーん」
「あーい」
「あの、なんか、自転車の後輪がべろーん、ってなってて」
「べろーん……?」
「はい、べろーんって」
「いやべろーんって言われても」
「でもべろーんってなってるんですよ」
「まあ見せてみなよ」
「これです」
「あー……、これは、うーん。何やったらこんなことなるの」
「いや、わかんないです。乗ろうと思ったらこんなんなってて」
「いたずらでもされたのかね、ちょっと待っててね道具持ってくるから」
「はい」
「おーい! あの、テープ持ってきて! うん! いや! 違う! テープ! うん! いやパンクもしてて、うん! いやちゃうねん、なんか、べろーんなってんの! え!? いや、べろーんって! うん!」
すると奥からおばちゃんが
「はいテープ……うやっ! 何これ、べろーんなってるやないの!」
「はい、すいません」
「だから言うたやろ、べろーんなってるって」
「こんなべろーんなってるとはね」
「いたずらやろ、べろーんならんもん普通」
べろーんべろーんうるせえ。
2006年12月09日 10:30