■チェル野ep10

「テニスの放射能」

(ふー、何とか授業には間に合った……)
「今日の一限目なんだっけ?」
「確か数学よ」
「マジで! 宿題やってないよぅ!」
「もうブイ美ったら底なしのマヌケね! 大丈夫、また返り討ちにしてやるんだから!」
「もう人間(ひと)みったらレッカー馬鹿一代ね!」
「あ、先生来たわよ!」

「えー……皆さんいますね」
「(あれ? 何かおかしい……)」
「それじゃ、えー、それじゃね、授業を」
「(間違いない! この人!)」
「ちょ、ちょっとまって」
「おや、君は……チェル野さん、どうかしましたか?」
「先生、いや、あなた、あなた誰ですか?」
「ちょっとブイ美! 何素っ頓'n狂なこと言ってんのよ! どうみたって数学の溝口じゃん!」
「いいえ、違うわ、あの目の青アザを見て」
「見てって、いつもの青アザじゃない」
「あの青アザはドMの先生がいつも家を出るとき奥さんにエルボー喰らってるからよ、そして先生の奥さんは右利き……」
「ってことは!」
「そう! アザは左目にできていないといけない! でも先生のアザ、今日は右にあるの!」
「本当だわ! え、てことは?」
「まったく理解力のないオーディエンスね! 先生、いや、謎の怪人! 正体を現しなさい!」
「ほほほほほ! さすがブイ美! 私が見込んだだけのことはあるわね」
「その声は!」
びりびりびりびり!
「部長!!」
「お久しぶりね、ブイ美さん」
「え、部長が、なんで、え、じゃあ、先生はどこに!?」
「溝口先生にはあそこでちょっと眠ってもらってるわ」
「あそこ? あ、すごい! 流れる滝が作る大量の水しぶきが太陽の光を浴びて、無数の虹を作り出している!」
「そう、水と光の織り成すオーケストラってところね」
「素敵……はっ! いや、部長、そうじゃなくて先生は!?」
「あそこよ」
「あれは! 雪の重みで垂れ下がった樹の枝たちが、そのままの形で樹氷となって自然のアーチを作り出している!」
「温暖化などしなければ、私たちはあのアーチで歓迎されているはずなのよ」
「何て神秘的な……、はぅ! じゃなくて先生は!」
「あそこを見て」
「なんてこと! 厳冬期に岩肌から滴る一滴一滴が、地面に落ちた瞬間に凍りつき、まるで氷柱が下から伸びているみたい!」
「氷筍、と呼ばれるものよ。自然は我々の理解を超えているわね」
「夢みたいな光景……じゃなくて、先生は!?」
「拉致されたわ」
「ええええ!?」
「そう、拉致したのは憎き銀河私立二層式高校テニス部!」
「にそテニが!?」
「そう、そして我々は先生を取戻すために、練習試合を申し込んだわ!」
「練習試合!」
「そしてその試合のシングルス1、あなたにやってもらおうと思って」
「ええええーー!!」

つづく。

2007年01月27日 21:58