「……ですから心臓に負担がかかってまして、このままだとまた同じように急に倒れてしまうことはあるかもしれないんです」
「え、そんな、先生それは困ります。どうすれば……」
「そうですね。ペースメーカー、入れますか」
「え」
「ペースメーカー、心臓に」
「いや、それはちょっと、いろいろ不安もありますし」
「いや大丈夫ですよ、最近では技術も発達してますし」
「でも……」
「言うより実際見てもらった方が早いかな」
「見る?」
「ええ、これカタログなんですけど」
「カタログ?」
「夏に新しい機種が出まして」
「機種!?」
「ええ、コレなんかどうですか? ビデオカメラ付きペースメーカー」
「カメラなんかついてるんですか? どうやって録画するんです?」
「見るだけでいいですよ、脳と連動してますから、見るだけで録画されます」
「え、でもどうやって録画したのを見るんですか?」
「ま、それは取り出さないと」
「取り出したら死ぬじゃないですか!」
「だからまあ、お孫さんなんかが『おじいちゃん女のケツばっか見てたんだー!』みたいなことをね」
「死んでる死んでる! 俺死んでますよ先生!」
「じゃあ、これどうですか、カメラ付きペースメーカー」
「いや、だから」
「瞬きする度にシャッターが押されますから、便利ですよ」
「どうせ取り出すとき死ぬんでしょ?」
「まあですから、お孫さんなんかが『おじいちゃんのフィルム女のケツばっかりー!』みたいな」
「俺どんだけケツばっか見てるんですか。普通のペースメーカーないんですか?」
「普通って、そしたらメールと携帯しか出来ないですよ」
「メールとかできるんですか!?」
「ええ、着メロも選べますよ」
「着メロって、どっから鳴るんですか」
「口からですね」
「口から?」
「はい、メールが来ると自動的に歌いだしますから」
「俺が!?」
「そうですね」
「嫌ですよ恥ずかしい! 何で街中で急に歌わないといけないんですか」
「着メロは嫌ですか?」
「嫌ですよそんなもん、だから普通のやつに」
「マナーモードにもできますよ」
「あ、音鳴らないようにできるんですか?」
「ええ」
「あ、なら別に」
「死ぬけど」
「そこは動けよ! 何で鼓動までマナーモードにしちゃうんだよ!」
「メールが来たらちょっと動きます」
「人生をバイブ機能に委ねたくないよ」
「じゃあ我慢して着メロ歌わないと」
「だからイヤだって」
「ファナティック・クライシス歌わないと」
「何で限定されてんだ。そこは選ばせてくれせめて」
「あ、じゃあこれだ、音声入力対応のペースメーカー」
「喋るだけでメールが送れるやつですか?」
「ええ、でもちょっと電波が弱いんで送りたい人の半径20センチ以内に」
「近えーよ! 半径20cmなんてもうキスの間合いじゃねえか! キスするわむしろ!」
「ワガママだなあんたはもう、じゃあこれ、ペースボーイ!」
「ペースボーイ!?」
「そう、小さく軽くなって持ち運びが可能!」
「今までのは持ち運び出来なかったのかよ!」
「通信対戦も可能!」
「しねーよ!」
「単三電池四本必要!」
「ゲームボーイじゃねえか! しかも昔の!」
「あーもうじゃあこれ! ペースメーカーshuffle!」
「歌いたくねえっつってんだろうがー!」
「もういい加減にしてください!」
「こっちのセリフだよそれは!」
「なんでもかんでも嫌々言っていては、何も始まらないでしょ!」
「いやそうだけど、変なペースメーカーばっかりじゃんかよ」
「少し自由にならなくても、そこは我慢してくださいよ」
「いや、だから」
「さっきからそうやって冷めた目で笑いかけてる魂を侵された奴、涙を流す痛みはあるのかい?」
「え、は?」
「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、ピッ
あ、もしもし」
「着メロかよ」
2007年01月13日 13:00