バイトを。
それを、バイトを増やさねばならぬということである。今後本当の意味で自立した人生を歩むため、収入を手っ取りクイックに増やせる方法としてバイトを増やすのだけども、別に何かしたいこともあるわけでもないので、なんでもいいのである。
僕がバイトを探すとき第一にして至高の条件として「空襲があったら一緒に焼失するぐらい近い」というのが挙げられるため、基本的にfromAとかはあんまり使わず足で探す。家の周り半径2,3km付近をぐるりと巡ってそれらしい仕事を探していくわけだがそれにしたって数多くの店舗がバイトを募集している。パン屋にレコード屋に薬局、幅広く職はあるが近ければとにかくなんでもいいのである。
パン屋なんかはいいかもしれない。毎日前を通ると香ばしいパンの匂いのする店舗の中で、朝一番のイースト菌をお届けするべく釜の前でパンが焼きあがるのを待つ僕。「おはようございますー」爽やかな挨拶とともに、レジカウンターから顔だけ出して挨拶をするのは、このパン屋の一人娘にして看板娘の百合子さん、朝からお疲れ様ですなんて言葉を交わしながらエプロンをしめる百合子さんを後ろから見る、紐を口で押さえながらエプロンをしめるその姿に見とれていると百合子さんが急に振り返り僕は慌てて後ろを向く「どうかしました?」「い、いえ!」「あ、やだ、三村さんたら」「え?」後ろを勢いよく向いた途端にクロワッサンの両端が鼻に刺さっていたのだ「やだもー! 牛の鼻輪みたい……!」「あ、これは! すいません、みっともないところを…!」「もー朝から笑わさないでくださいよ!」僕らは二人の関係が、ふっくらと焼きあがっていく……。
しかしまあ、CDショップも中々面白そうだ。朝一番に棚のCDを並べなおす、これが僕の日課だ。視聴しては元の場所に戻さないお客さんが多いので、毎回結構な量のCDがちぐはぐな場所へ置かれてしまっているのだ。これ、は、美川憲一のCDか、何で「か」のところなんかにあるんだ……「み」……「み」よし、で、これは室井滋……「む」……で、これは……「ら」……「く」…「ん」……「ス」……「キ」…うん? 「み」「む」「ら」「く」「ん」「ス」「キ」? 「おはようございます!」「うわ、びっくりした!」「あ、CD整理してたんですね、あたし昨日帰るときCDバラバラに入れちゃって……」「え? 百合子さんが、じゃあ、これって……」
薬局も悪くない。「すいません」「どうしました?」「あの、アレルギーの、薬を……」「アレルギー、ですか? 何のアレルギーでしょう、花粉症ならこちらの」「いえ! ちが、うんです、あの、好きな人の前に立つと、あ、あ、あがっちゃうのを直した、くて」「……なるほど、内服薬がいいですか? それとも外用薬?」「外用薬、なんて、あるんですか?」「ええ、唇に貼るタイプの」「あの、そ、そ、それください!」「わかりました、じゃ、目を閉じて……」
なんでもいいのである。
2007年02月21日 23:39