■心配性な生徒

「えーと、君がタカシくんかな?
 今日から君の家庭教師をすることになった山口だよ。よろしくねタカシくん」
「よ、よろしくお願いします……」
「それじゃあ、早速だけど、勉強していこうか!」
「あ、あの」
「ん? どうかしたのかいタカシくん?」
「いえ、な、なんでもないんです
 (ダメだ初対面なのにこんなこと聞いたら絶対変な子だと思われる
 でもどうしたらいいんだ、どうしても気になることがあるんだ僕には!)」
「タカシくん、全部聞こえてるけど」
「し、しまった! 僕ともあろうものが!」
「そういうリアクションとる人初めて見たよ先生
 何か気になることがあるのかい?」
「あ、はい……」
「何でも言ってごらん」
「あの、先生、先生は、本当に納得して僕の家庭教師をやっているの?」
「え?」
「無理してるんじゃないんですか? 本当はやりたくないのに……」
「あ、あははは、何を言ってるんだよタカシくん」
「そうだきっとそうだ、きっと家庭教師をしなければいけない理由があるんだ!
 はっ……! まさか、人質……?」
「タカシくん?」
「そうだ人質だ! 人質に決まってる! 僕の母さんに脅されているんだ!
 きっと母さんに大事なポテトとコーラとベーコンレタスバーガーを人質に取られてるんだ!」
「タカシくん、大丈夫だから
 先生バリューセット人質に取られたぐらいで言うこと聞いたりしないから」
「でなければ僕みたいな虫野郎に勉強を教えたりなんてしない!
 僕は虫野郎、ゴミ以下の虫野郎!」
「タカシくん!」
「あ、せ、先生!」
「大丈夫だから、そんなに心配しなくても大丈夫だから」
「先生……!
 でも虫野郎はいくらなんでも言い過ぎじゃないですか!」
「タカシくん、それ僕言ってないから
 君が自給自足した悪口だから」
「一寸の虫にもボブの魂ですよ!」
「五分な五分
 ボブってどこの黒人なんだよ
 あと失礼だよボブにも
 
 タカシくん、心配しなくても大丈夫だから、ね?」
「先生……!」
「じゃ、数学やろっか。
 教科書開いてタカシくん」
「はい、でも、この教科書は僕に開かれることに納得してますか?」
「してる、してるよ大丈夫だよ」
「本当に? 本当に大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ、さ、ほら、開いて」
「ダメだ、きっと開いた瞬間、問題がささっとどこかに隠れてしまうに違いない!」
「土手の石の下にいる虫じゃないんだから。
 問題は逃げも隠れもしないよ」
「逃げも隠れもしないんですか!?」
「ああ、しないよ」
「ってことは僕、ナメられてるってことですか!」
「なんでそうなるかな
 大体文字は動いたりしないんだよ」
「僕が虫野郎だから、ナメやがって!
 ぶっ殺してやるー!」
「教科書開くのにそんな掛け声した子、初めて見るよ」
「はあ……はあ……」
「あ、汗だくだねタカシくん
 クーラーでもつけようか」
「ダメだぁー!!」
「もう怖いよタカシくん
 今度は何なの?」
「どうせクーラーも、僕を冷やすことに納得なんかしてないんだ!
 僕を冷やしながらも、心の中では他の女のことを考えてるんだ!」
「どんだけジゴロなんだよこのクーラー」
「冷ややかな目で僕を見てるに決まってるんだ!
 クーラーだけに!」
「結構余裕はあるんだねタカシくん
 もう先生も暑いから、クーラーつけるよ」
「だ、ダメだ先生! 先生、あーっ!

 先生がつけたんだからね! 僕じゃないからね!
 僕は止めたけど先生がつけたんだからね!」
「クーラーに何を叫んでるんだよタカシくん」
「あああ……
 先生、もう今日は帰ってください……!」
「あ、まあ、そうだね。また後日、落ち着いてるときに勉強しようか
 じゃ、今日は僕これで帰るよ」
「あ、待ってください!」
「ん?」
「先生は本当に納得したうえで帰るんですか!?」
「もういいよ」

2007年09月24日 19:13