ママただいまー
あれ、いないのかな、ママー?
おや?
机の上に書置きがあるぞ、どれどれ
「ゆうさくへ
ママはちょっとアレをナニしてきます
戸棚の中におやつがあるから
レンジでチンして食べなさい」
なんだママ出かけてるのか
戸棚の中におやつだって、何かなー
はりはり漬けじゃないか!
こんな食感を楽しむタイプの漬物なんか
たとえ今が大正時代でもおやつとは言い難いよ!
でも一応チンしてみようかな
湧き上がる好奇心を抑えられない年頃のせいにして
漬物をレンジに入れる子供に、今だけなるよ
チン!
あ!
チンしたら漬物に文字が浮かび上がってきたぞ?
なになに
「ゆうさくへ
好奇心に負けて漬物をチンするなんて!
もしそんなことがよそ様にバレたら
精神鑑定の結果を持ち出しても言い訳できるかどうかわからないわ
そんなことより、本当のおやつが
戸棚の裏にある、裏戸棚に入ってます
バーナーで焼き色をつけて召し上がれ」
ママったらおてんばだなあ!
おてんばって言葉でカバーできる年齢を2ダースぐらい上回ってるくせに!
裏戸棚なんて、そんなものうちにあったんだ。
どれどれ、あ、本当にあるぞ
裏戸棚が本当にあるぞ
そしておやつらしきものの存在も確認できるぞ、どれどれ
眠眠打破じゃないか!
何で世間が一番油断する時間帯にこんなガチで覚醒しないといけないんだよ!
ママには僕が土方か何かに見えるっていうの!?
こんな残業のお供なんかに、おやつとしての権利を認めるわけにはいかないよ
でもバーナーであぶってみようかな
僕ぐらいの年齢ならカエルのケツに爆竹つっこむのも、眠眠打破あぶるのも
「冒険」の一言で済まされるだろうしね
ルフィが聞いたら麦わら全部ほどけちゃうぐらいビックリするだろうけど
これが僕の「大冒険」なんだから
ごぉー
ぶぉー
あ、何か文字が浮かび上がってきたぞ?
「ゆうさくのハゲ
この文章を読んでるということは、眠眠打破をバーナーであぶったのね
漬物チンに続いて眠眠バーナーまでやらかすなんて
もうママ辞苑をもってしても、貴方を形容する言葉が見つからないわ
でも本当の地獄はここからよ、ゆうさく。ハゲの。
この文章を逆さにすると、地図が見えるはず
その地図の先に、あなたの求めるおやつがあるわ
あと一息よ、がんばるのよゆうさく。ハーゲ。」
いよいよ血縁を超えた怒りが湧き上がってきたぞ
でもしょうがない、ここで投げ出したら
それとなく晩のおかずが減りそうだし、最後まで付き合おう。
なになに、えーと、地図だって
これによると随分遠そうだなあ
遠そうだけど
それより居間の真ん中に置かれてる馬鹿でかい箱が気になるなあ
リビング、って言葉の意味さえぶれさせる存在感だけど
一応地図にそって歩いたりしないとダメなのかな
この箱が全然関係ないという可能性もあるし
よし、一応地図どおりに歩いてみよう!
* * *
やっぱり箱に辿り着いちゃうじゃないか。ママの馬鹿。ズベタ。
箱の中には今度こそおやつが入ってるんだろうな
もしおやつじゃなかったらこの家に火をつけて舞鶴に飛ぶよ
日本海の荒波は、きっと僕のすさんだ心も洗い流してくれるはずだから
ぱかっ
「ゆうさく! よくここまで辿り着いたわね!」
「ママ! 何してるのこんなところで!」
「ゆうさくがママのところまで辿り着けるかどうか、試したのよ!」
「すごい! 気象衛星からでも観測できるぐらい大きなお世話だね!」
「じゃ、ご褒美のおやつをあげるわ!」
「わあいおやつ!」
「はい! はりはり漬け!」
ごおー
「あ、熱っ、いやだわゆうちゃん、熱いわよバーナーは流石に熱いわ」
ぶおー
「もうゆうちゃんたら、甘えんぼさ、熱っ、あっつい」
2007年09月27日 14:57