■妄想競馬

今の短期バイトを始めてからもう三週間以上が経過した。

朝九時から夜六時までのお仕事。

始めた当初はこんな生活一ヶ月に続けられるわけも無いと思っていたが、意外とやれば出来る、どころか楽しくて仕方ない。そう、恋をしているからである。

バイト先に一人、やたらキレイな人がいるのだ。どこの床を剥がしても漏れなく死体が埋め込まれててもおかしくないぐらいフィーバーしてる廃屋こと作業場の中で一人だけ掃き溜めに鶴。鼻筋の通った、目のぱっちりした、肌のキレイな、顔の小さい、本当にキレイな人。

恋心ってのは世界中のどの燃料よりも燃費のいいエネルギーであって、これがあるだけでどれだけ残業が長引いても、どれだけ朝が早くても頑張れる。もうその子とシフトが同じになるだけで動きが五倍は早くなる。梱包機が酷使しすぎて「すいません、もう無理」って形の煙出すぐらい頑張る。梱包→荷物を置く→梱包→あの子をチラ見→梱包→荷物を置く→チラ見→梱包しながらガン見、だ。

世界中どこのCanCamを覗いても「梱包の早い男がモテる」などとは書いてないのだけれども、そんなことはお構いなし。しかしまだまともに会話をしたことは一度も無く携帯も知らない、このままでは僕らの関係が築かれる前に自然消滅することは必至。どうにかしなければ、どうにもならない。どうしたらいいんだ。俺はどうしたらいいんだ。

ケース1)朝タイムカードを押すとき、たまたま会う。そのまま作業場まで二人で会話しながら歩く。そのとき二人の趣味やノリが凄く似ていることに気づき、意気投合。「もっと早く話しかけてればよかったねー」なんて言いながら「今度どこか行こうよ。死体の無いところとかさ」などを口実に携帯を聞く。(解説:彼女のタイムカードの履歴を見る限り、大体僕の約四、五分あとにタイムカードを押していることはわかっている。しかしなかなかタイミングが合わず、合っても会釈するぐらいで終わってしまう)

ケース2)事務所へのおつかいを頼まれた俺が致命的な忘れ物! アレを持たずにアイツ何しに言ったんだ、仕方ない、君、アイツにこれを渡しにいってくれ! そんなこんなでおっちょこ転じて福となす。二人で協力した感も出て二人の仲は一気に親密に!(解説:事務所におつかいを頼まれることがほとんどないし、もし上手く忘れ物をしても男のバイト仲間が全速力で僕を追いかけてくる)

ケース3)実は彼女も俺のことが気になっていた。俺のタイムカード履歴を見て、帰る時間を予測し、その時間にちょうど俺に会えるように作業場の付近をうろうろ。偶然を装って俺に近づく。俺はIQが999999あるのでそんなことはお見通しだけどもネ!(解説:割れた貯金箱を見るような目で俺をいつも見ているので、中々これは難しい。あと人のタイムカードの履歴を覗くなんてストーカー以外の何者でもない)

ケース4)残念……携帯も聞けないままバイトが終わってしまった。でもいつまでもくよくよしてられない! 心機一転頑張らなくちゃ! と、応募した茶道師範のバイトで彼女とバッタリディスティニー! 俺「あ、君は、こないだの!」面接官「え、何、二人は知り合い」彼女「え、えーと」面接官「もしかして、恋人同士?」俺「え、いやいやいや、そんなんじゃないです! そんなんじゃ!」彼女「そうです! そんなんじゃ……まだ……」俺「え、まだ……?」(解説:もうすでに両思いが前提になっているので、こうなる可能性はトレーシングペーパーより薄い)

ケース5)一つの荷物を取ろうとした俺と彼女の頭がゴツン! 二人の人格が入れ替わり、俺があの子であの子が俺で俺の携帯があの子の携帯で、ふむふむあの子の番号はこれか。(解説:人格が入れ替わるというところに目をつぶれば一番自然な展開)

さあこの五つのケースの中から「ねえよ」と思ったケースの数字を三つ書いてメールフォームから送ろう!

またその一位、二位、三位を予想してメールを送ろう! 見事的中させることができるか!?

君の賭博師としての才能が今、試される……!

2007年12月22日 23:24