■野生のコッポラがとびだしてきた

お料理。

「お料理をするときはお料理本を見るのがお自炊をするときのお作法でございます」と、自炊の神コマッタ・ラ・カレー様に教えられてきたので、俺の家にはお料理本がある。タイトル『基本の和食』なるほど看板に偽りゼロ、開けば筑前煮、ブリの照り焼き、炊き込みご飯と基本的な和食が名を連ねてる。そして『基本の和食』その横にこうも書かれている「とりあえず この料理さえ 作れれば」

さりげない五・七・五の風流さでずっと誤魔化されてきたけれど、どういう意味だこれ。
「とりあえず この料理さえ 作れれば」
作れれば、何だ。どうだというんだ。

とりあえず俺は今までの人生で「チクショウ! 筑前煮さえ 作れれば!」と叫んだことは無い。雨の中、傘もささずに地面を殴りながら叫んだことはない。そんなのはよほどの和食好きかバカだ。もしくはバカだ。そう、それだ。バカだ。「筑前煮さえ作れれば……」なんだって言うんだ「筑前煮さえ作れれば……息子は返してもらえるんだな」お?

「ああ、約束するぜ、筑前煮さえ作ってくれりゃお前の息子は返してやる!」
「わかった……」
「おおっと! 間違っても警察なんか呼ぶんじゃねえぜぇ……」
「わかってる! みりんを取りに行くだけだ」
「へへへ……さあお前のお父さんは筑前煮を作れるかなあ~?」
「お父さんは、お父さんはきっと筑前煮を作ってくれるんだい!」
「へっ! 威勢のいいガキだ……お前の親父が筑前煮を作れなかったら、どうなるかわかってんだろうなぁ!」
「待て! 筑前煮だ……!」
「お、へへっ、意外と早かったじゃねえか……!
 ふぅ~いい臭いだぜ、どれどれ……!」
「今だ!」ばしゃーん!
「熱っちー! 熱っちー!」
「逃げろ! 息子よ、逃げろー!」
「パパー! 切迫した状況とはいえ名前を呼んでよー!」
「てめぇらー! もうゆるさねえ、死ねぇ!」ぱーん
「うぐっ……ふんっ!」
「な、何で死なねえ! 
 俺の高価なピストルが確かに心臓を撃ち抜いたはずだ!」
「この生煮えのニンジンが、俺を守ってくれたのさ!」
「何ぃ~~!?」

最後は息子のセリフね。

2008年01月09日 02:32