■極限姉妹

「ねーお姉ちゃん」
「んー?」
「どうしよう」
「どうしよう、って言ったってねぇ」
「だってさー、この館に泊まってる十人の中に殺人犯がいるんでしょ?」
「っていう話だよね」
「どーしよー……」
「まあ、死ななきゃいいんじゃない」
「でもー、だからって館の地下に備え付けの、やたら古いゲームの筐体ばっかり置いてあるゲーセンで時間潰してる場合じゃないよう」
「あ、エイリアンvsプレデターだ。久しぶりにシェーファー使うか」
「おねえちゃんってば!」
「何よ」
「殺人犯が来たら嫌だよう、わたし、部屋戻るからね!」
「んーいいけど、理由別のにしな」
「理由?」
「その、『殺人犯が来たら嫌だから』を別の理由に言い換えてから行きな」
「え……じゃあ
 『もちごめがもちなのか米なのか白黒つけないのなら、わたし、部屋戻るからね!』
 これでいい?」
「オッケー」
「何か意味あるの?」
「ん。別に。
 ただ死なないようにしただけ」
「ふーん」

***

「ねーおねーちゃーん、いつまで巻藁に貫手かましてるのーもう寝ようよー」
「ん、待って、あと三セット」
「先寝ちゃうから、寝ちゃうからね!」
「いいよ、あ、そうだ、アンタ」
「なに?」
「たぶん、夜中におしっこ行きたくなると思うけど、一人で行っちゃ駄目だからね。必ずアタシを起こしなさい」
「え、わたし今朝ビタミン点滴しかしてないからおしっこ超臭いけどいいの?」
「アンタ、人類を飲尿するかしないかで分けるのやめなさい」
「じゃあ、なんでー?」
「いいから、死にたくないでしょ?」
「う? うん」

***

「お姉ちゃん! カミング尿意スーン! カミング尿意スーンだよ!」
「誰がラジオDJっぽく起こせっつったのよ、まあいいや」
「廊下超暗くて怖いよ! 文明が消えてるの!」
「電気ね。あんた怖いからっておしっこ漏らさないでね」
「そうだね、おしっこの臭い辿られたら、事だしね!」
「そりゃ本当に、事だわ」
「でも、二人でトイレ行って大丈夫かな? 殺人犯がいるかもしれないんだよ?」
「ん、大丈夫よ。ただもうすぐ悲鳴が聞こえ

キャアアアアアアアアアアア!

「おねおねおねおねおばあちゃん!」
「何で土壇場で言い間違えんのよ」
「悦楽によるとも恐怖によるともつかぬ断末魔。それは、この豊かな暗闇が孕み、そして堰き止めていた感情の塊が破裂する音に他ならなかった。子供が悪戯に障子を突き破ってしまうあの衝動……果たしてこの暗闇を破裂せしめたものは、それぐらい些細で有毒な観念であったように思われたよ!」
「その、動揺すると三島由紀夫節が出る癖治したほうがいいよ」
「第二の犠牲者だよ! やっぱりずっとここにいるのは危ないよ!」
「といってもねーじゃあどうやってここから出るの」
「ラペリングすればいいんじゃん?」
「『メルアド変えればいいんじゃん?』ぐらいのノリで言わないでね。どこの陸軍将校よ」
「だってー!」
「まあとにかく、明日また犯人探しがあると思うけど、そのときなるべくアリバイは疑われる感じで喋りな」
「え? 疑われちゃ駄目じゃん!」
「完璧なアリバイしゃべると、死ぬよ?」
「うー?」

***

「おねーちゃーん!」
「何」
「すっげー疑われたじゃん! あの探偵に! 『じゃあ貴方のアリバイを証明できる人はいないんですね』って二回も言われたよ!」
「そりゃ間にCM挟んでたからでしょ」
「CM?」
「なんでもない。ま、これでアタシらが死ぬことはないよ」
「でもーいずれは危なくない?」
「まあ、次の被害者が出た辺りでトリックの謎が解けるから」
「そうなの?」
「大体そのぐらいのタイミングだよ」

キャアアアアアアアアア!

「うわー!
 それは人間的でありながらも獣を想起させる嬌声であり」
「いいから、着替えなよ。帰る準備しな」

***

「……よって、凶器に使われたワンダースワンは貴方のもので、つまり貴方が犯人だ! QED!」
「ギャー! ひでぶっ!」
「でたー! 金田一、二先生のQED神拳やー!」
「事件解決やでこれホンマー!」

***

「おわったねー」
「ね」
「一時はどうなることかと思ったよー」
「まあ、大体あんな感じよ。アンタも勉強になったでしょ」
「うん、あ、そうだ、今度また旅行いこうよ!
 今日の埋め合わせ!」
「いいけど、どこ?」
「えっとねー湖のほとりにある山荘か、民間伝承のある小さな村の民宿に行きたい!」
「パスしとくわ」
「えー!」

2009年07月05日 22:07


なんか東野圭吾の『名探偵の掟』を思い出しました。

投稿者 Anonymous : 2009年07月06日 07:33

姉妹シリーズ大好き。

投稿者 Anonymous : 2009年07月06日 13:02

森見登美彦新刊がこんな話でした。

投稿者 Anonymous : 2009年07月07日 22:34