■最後の一次会

「イエス様、一体どうされたのですか?
 我ら十二使徒を集めて……何か重要な話でも?」
「よく聞きなさい我が子であり友たちよ
 私はゴルゴダの丘で、十字に磔られるであろう
 そしてそれは、そなたらのうち一人の手引きによるであろう」
「我らの中に裏切り者がいるとでも?」
「それは裏切りではない。誰かが為さねばならぬことなのだよヨハネ」
「その者は、なぜそのようなことを」
「人の原罪は、誰かが購わなければならないものなのだ、ペトロよ
 そのものの行いは罪ではない、私が磔られるのは、宿命なのだ」
「(この中に……裏切り者が……)」
「(信じられん……しかし主が……)」
「これから私がある者に、パンをワインに浸したものを与える
 その者こそが『為す者』である」
「バカな……到底捨て置けません! 主よ!」
「恨んではいけない。責めてはいけないのだ、マタイ。
 彼の者は、為すべきことを為すだけなのだ」
「(そんな、まさか……)」
「(見ろ、主がパンを手に取った!)」
「はい失礼しまーす! こちらお通しのパンのワイン浸しになりまーす!
 はい十三名様ですねーお飲み物お決まりでしたらお伺いいたしますがー!?」」
「あ……」
「え……」
「主……イエス様?」
「あーえーと……えーちょっとまってね
 (ちょっと! 何これ!? こないだ佃煮だったじゃん!)」
「あ、本日のお通しはこちらになりまーす!」
「(そんなこと聞いてんじゃないよ! もう! パン持ち込んだ俺がバカみたいじゃん!)」
「あ、お客様飲食物の持ち込みはご遠慮ねがえますかー!?」
「(元気よく注意すんなよ! スゲェ見られてるじゃん! 神の子なのに俺!)」
「お飲み物はー!? お決まりですかー?」
「(聞けよ話!)」
「い、イエス様?」
「あーうん、いやいや、んーと、あ、そうそう!
 これから私が生中を注文して与えるものこそが『為す者』であり
「僕、生」
「ヨハネー!」
「あ、俺も」
「ペトロー!?」
「私も」
「マッターイ!」
「はい生の方ー!? えー、いち、にい……十二名でよろしいですかー!? 他お飲み物のご注文ございますかー!?」
「イエス様何にします?」
「何にしますかじゃないよヨハネお前、邪魔すんなよ!」
「だって早く決めないよ店の回転に支障出ますよ」
「何で飲食店側なんだよお前! 今回は楽しく飲むのが目的じゃないの!」
「え、そうなんですか?」
「最初の空気で大体わかんだろそんなの!」
「いや何か酒マズくなりそうな話だったし」
「主! 俺主! 主の扱い雑くね!?」
「こちらのお客様お飲み物わー!?」
「あ……ハイボールで」
「はい承りましたー!
 お食事の方は、あとでお伺いいたしますかー!?」
「あーはい、あとで言うんで……
 あ! なんこつ唐揚げだけください!」
「はーい! かしこまりましたー!」

* * *

「はいお待たせいたしましたー!
 こちら生中と……ハイボールですねー!
 で、こちらがなんこつ唐揚げになりまーす!」
「うむ、うん、よし、良いか皆、聞きたまえ
 これから私が取り分けた唐揚げにレモンをかけたものを、ある者に与える
 その者こそが『為す
「カンパーイ!」
「ヨハネー!」
「お疲れしたー!」
「ペトロー!?」
「あ、レモンかけちゃいますねー」
「マッターイ!」
「なんですか、はしゃぎすぎですよ」
「お前勝手にレモンかけちゃうなよ!」
「だってこん中にレモンダメな人いないし」
「違うじゃん! 今日のレモンは特別な意味があるんじゃん! C-5000ぐらいのビタミンが含まれてるんじゃん!」
「マジもう酔ってるんですかモジャさん」
「何だよそのあだ名! もういいよ!
 すいませーん!」
「はーい! ご注文どうぞー!」
「チヂミください!」
「はいかしこまりましたー!」
「いいか! 俺が! 今からチヂミを渡すものが! 裏切り者だからな! そいつはそれ食ったら三千円置いて帰れよ! あとヨハネ! お前チヂミ絶対とんなよ!」
「俺こないだ韓国行ったんで。
 あ、知ってます? 韓国だと屋台とかで普通にチヂミ売ってて」
「うるせーし! 
 知らねーし!
 知る予定もねーし! 
 いいから手出すなよ、な!」
「はいお待たせしましたー! こちらチヂミになりまーす!」
「よし! 
 見てろ裏切り者コイツをお前の顔面に何コレ熱っつぃ!」
「あ、鉄板熱くなってますから気をつけてくださいねー!」
「熱っつい! 熱い! マタイ! 耳貸して耳!」
「マタイの耳で指冷やしてっ、るっ! ウケるっ! はっ!
 福音ならぬ、マタイの福耳っ!」
「すいませんねぇ~このモジャロン毛酔ってるみたいで」
「ヨぉハネー!」
「これお好み焼きとは違うんですか? でも旨いすね」
「ペトロぉー!?」
「すいません俺もチヂミー」
「マッターイ!」

* * *

「でぇ、誰が裏切るんすかぁ? モジャ公さぁん!」
「うっせぇーよ、もう言わねぇ、絶対ぇ言わねぇし!」
「スネんなよ! うはっ! 神の子スネてるしょべぇ!」
「ちょっと飲みすぎですよ、お冷頼んできますね」
「酔ってねぇよユダ! ハゲ! 余計なことすんじゃねぇよテメェ裏切るくせに!」
「ぶっはー! ユダお前裏切んのかよ!」
「いや、私は、決してそのような」
「写メ撮っていい? ねえ写メいい?」
「ちょっとやめ、やめてください!」
「ヨハネー!」
「はい?」
「ペトロー!」
「んー」
「マッターイ!
 次の店行くぞ、次! うめぇやきとん屋があんだよ……吉祥寺には……
 ユダぁ! お前会計しとけよ! 金貨もらってんだろ! なあ!」
「……せぇなモジャロン毛……」
「何か言ったか、ユダぁ!」

2009年08月07日 20:17


マッターイ!がいい響きすぎる。

投稿者 Anonymous : 2009年08月07日 21:04

ブログのデザインが崩れるほどおもしろい!

投稿者 Anonymous : 2009年08月07日 21:39

画像のサイズ小さくしましたよって!

投稿者 岩田 : 2009年08月07日 21:48

マッターイ!

投稿者 Anonymous : 2009年08月07日 22:05

なるほど、こうしてユダが裏切ったのか。っておい!!

投稿者 kokoro : 2009年08月08日 01:08

主よ

品がない

投稿者 俺主詐欺 : 2009年08月08日 16:28

マッターイ!
ってつい声に出してしまうくらい面白い!

投稿者 Anonymous : 2009年08月08日 22:02