■人類は脱線の炎に包まれた

物凄く堂々とエロ本を買う中学生。

冬眠中の熊よりちょっとだけ活動的の代名詞である我々書店員。その業務中の楽しみなんてものは、いかにして中学生がエロ本を購入するか、その手管を見るぐらいしかない。

友達数人で罰ゲーム的勢いを出して買っていく者や、シャブ抜き二日目ぐらいに震えながら買っていく者や、メモ紙をちらちら見ながら「これであってるかな」などと呟くことによって「俺は兄貴から頼まれておつかいしてるだけなんだ」フレーバーを出して追求を逃れようとする者。

ありとあらゆる知恵を振り絞り、悪あがきとも言える策を弄し、プライド死守ん期の若者たちがおっぱいに挑みおっぱいに沈んでいく。その様をビルの五十五階からシャム猫を抱きつつ眺めるのが最大の娯楽。至上の愉悦。トレーディングカードとして発売されたら販売元ごとセレブ買いするほど楽しみにしてるのだけど、そんな俺の常識をくつがえす金剛不動が現れた。

まずもっては普通にご来店。すでにここから足取りが違う。本来ならあまりの恥ずかしさゆえになんとなく店内を一覧してからアダルトコーナーに向かうものだが彼は一目散にアダルト棚へ、そう、堂々と、身体の軸が全くブレない達人の歩法! あまりの雄大さに後光凄すぎて白飛びした近くのブタ鼻女子高生が可愛く見えたし、足元でちょっと蓮とか咲いてた。

そしてエロ本を物色し始めた。物色し始めたのだ!
凡百なら選ぶ余裕もなくとりあえず手に取ったものを購入してしまい、後で「なんだよ! 浣腸ばっかじゃねーか!」と無念の死を遂げるはずなのに! その男はまるでコナン君を眺めるかのように物色し、棚に戻してはまた違うのを物色する。その眼光は鋭く、閻魔が罪人と善人を区別するかのように荘厳で絶対で、足元でちょっと蓮とか咲いてた。

そしてレジに向かって彼はやってきた。新米の兵ならばレジの俺から目線を外し、うつむき以上速足未満でやってくるものが、彼は全く目線を逸らすことなく、いやそれどころか、ちょっと足元で蓮とか咲かせながらやってきた。

「これください」

差し出された東鉄神の『いけませんお嬢様!』
俺はエロ本にカバーをかけながら彼の顔をちらっと見た。澄んだ瞳、意志に満ちた唇、まるで迷いの無い表情、いや……少し彼は微笑していた。全ての人類を等しく許していた。

「ろ……六百三十円になります!」

気づけば俺は敬礼していた。

「じゃあ、これで。お釣りは結構ですから」

泣いていた。もう俺は泣いていた。
自分は何て卑しい人間なんだろう。エロ本に右往左往する中学生を見て悦に入るなんて、恥ずべき人間だ! しかし彼はそんな俺をも許してくれた。彼はそんな俺にも等しく愛を注いでくれた! もう中学生を馬鹿にするような真似はやめよう、そう、あなたのくれたこの蓮の花に誓っ


ちょっとお金じゃないと困るんですけど。君どこの学校?

2009年08月29日 22:38


プライド死守ん期、あるよねぇ

投稿者 猫 : 2009年08月30日 02:59