■shut up and let me go

マクドナルドでぼーっとしながら「ゴキブリホイホイがゴキブリHEYSAYだったらジャニーズ好きのゴキブリが捕まるのかな」なんて思ってたら俺の席の横で子供が二人喧嘩しだした。

それはじゃれ合ってるとかいう次元をとうに越えた、金的目潰し砂入り米びつ有りの随分とバーリトゥードな様相。

やりとりに耳を傾けて双方の言い分を聞いてみると、どうやら兄貴の方はトイレに行きたいらしいが弟は一人になるのが絶対に嫌ということで押し問答しているらしい。

兄貴は小学生高学年、弟は低学年ぐらい、おそらくはお母さんが一階で注文をしている間場所取りがてら荷物を見張っといてということなのだろう。兄貴としては二人いるんだから俺がトイレで性器露出してる間おまえが荷物見てろ、ということなんだけど弟は絶対に嫌! 嫌! 一人になるから嫌! でもついてきたらお前お母さんに怒られるぞ、という兄貴に対し弟、嫌! それも嫌! 絶対に嫌!

兄貴の理論武装度に対して弟が丸腰過ぎる。
難しい話はわかんないけど落ちるの絶対に嫌だから全身にダイナマイト巻いて御社の面接に伺いました! って感じの逆圧迫面接。痺れを切らした兄貴が無理やりいこうとすると、弟もまた無理やりついていこうとするので、地面を蹴って威嚇をする兄貴なんだけどその衝撃で腎臓にいらん催促をしてしまって尿意が内股を加速させる。弟は兄貴の殺意と尿意の混じった形相を目の前にほぼ半泣き。

怯んだ弟を尻目にまた行こうとする。ついてくる弟。威嚇の地面蹴り。ウェルカム尿意。このループを三回ぐらい繰り返したところでもう兄貴がキレて弟を突き飛ばし、そのままトイレに向かおうとすると後ろから「死んでやる!」

また随分とアンモニア臭い修羅場に居合わせたもんだなと思いながら眺めてると、さすがに兄貴も死なれては困ると思ったのか「ごめん、ごめん」と謝りながら弟を抱き起こしている。しかし足元のもじもじを見る限りもう相当腎臓グランデな感じであと五分もすれば「セットのドリンクお待たせいたしましシャー!」って感じだろう。

必死に弟を説得する兄貴。頑として首を縦に振らない弟。迫り来る尿意。

尿意ってのは人間の善意とか悪意を全否定する存在だと思う。
もし俺が、例えば親父が余命幾ばくもなく、あと五分もたないって時に彼ぐらいの尿意に襲われたら、たぶんちょっと親父の点滴つまんじゃったりする。粉ポカリ入れたりする。

しかしそれでも兄貴は弟をなだめて説得させようとしている。母親の言いつけをちゃんと守ろうとしている兄貴は愚直ながらも随分と輝いて見えた。自己犠牲。かくも美しい自己犠牲があったろうか。膀胱の限界においてなお、彼は責務を果たそうとしている!

ちょっと普通に感動しながら見てたら階段から三人分のセットを持った女性が上がってきた、母親だ、あの兄弟の母親だ、今この事態を収拾しうる唯一にして最大のカードだ!

「あ!」兄弟二人の顔が目に見えて明るくなる。ものその嬉しさでジョバりそうな兄貴が立つより早く弟が満面の笑顔で母親からトレイを受け取りながら

「もういいよ! おしっこ兄ちゃんバイバイ!」

愕然とした。
「こらこら、またお兄ちゃんにそんなこと言って」と母親が笑いながらたしなめていたが、違う、違うんだマムさん、もっと絶望的な。もっと全否定的な響きが「おしっこ兄ちゃん」には込められているんだ。

兄貴は何も言わずにトイレに走った。
俺も何も言わず兄貴を見送った。

彼が、人類の尿道に栓をするウィルスをばら撒く尿道テロで世界中を敵に回したとしても、俺だけは彼を最後まで弁護する。彼が、為すべきことを為し遂げるまで、俺は彼の傍らでそれを見届けようと思う。その時おしっこがしたくなったら?

我慢するさ。俺のおしっこだもの。

2009年08月18日 20:04


感動
と同時に一部始終を見届ける岩田さんの暇人ぶりに愕然

投稿者 Anonymous : 2009年08月18日 21:45

ミスター有閑とはあなただ。

投稿者 高等遊民 : 2009年08月19日 19:32

兄貴とはかくも素晴らしいものなのか!

投稿者 よっちゃん : 2009年09月02日 12:00