「あ、藤崎さんだ、オーイ」
「そうね。そうかしらね。それもそうね。ええ、そうだわ」
「あ、電話してるんだ。珍しい」
「そう。うん。イエス。はい」
「何とも肯定に彩られた会話だな、藤崎さん、藤崎さーん」
「あら、ちょっとごめんなさい。知っている類の人間に話しかけられたわ
ウィルソンくんじゃない、どうしたの?」
「伊藤です」
「ウ伊ルソンくん」
「無理やり組み込まなくていいです
誰と電話してるんです?」
「気になるのかしら」
「え、そりゃまあ、だって僕、一応、彼、氏、だし。それに、僕にだってまだ携帯番号を教えてくれないのに……一体誰としゃべってるんです?」
「木こりよ」
「え?」
「木こり」
「木こり」
「そう、木こり」
「木こりの知り合いなんていたの?」
「ウィルソンくん、貴方の(血の)携帯にはいくつ(血の)メモリーが刻まれているのかしら」
「いちいち宿命っぽくしないでください
僕友達少ないからなーあ、でも百人くらいいますよ」
「その中の一人でも、木こりでないという保証はある?」
「え……でも番号聞いたとき、木こりみたいな人はいなかったですよ」
「でも今、木こりになっていないという証左はございま」
「え」
「ございま」
「せん」
「そうね。私が話してるのもそういう木こりよ
あら、ごめんなさい。お待たせしてしまったわ。
ええ、そうなの。あなたがそう仰る、そのそれと、あれしてたのよ」
「ぼやかすなー」
「ええ、そうね。こっちはいい天気だわ。
え? それは山の幸ね」
「木こりと何の話してるんですか」
「パソコンは山の幸か海の幸かと聞かれたわ」
「絶対獲れないと思いますよ。どんだけ欲しいか知りませんけど」
「ウィルソンくんは木こりに興味があるの」
「無いといえばウソになります」
「ウソをいえば、無いのね」
「あります」
「では、木こりとお話させてあげようかしら」
「あ、電話代わっても大丈夫なんですか?」
「忍法の話はしてないわ」
「僕もしたつもりないです」
「忍法電話代わりの術の話をしたじゃない」
「何ですかそれ」
「まず携帯電話と丸太を入れ替えたかと思えば私の携帯とウィルソンくんの携帯が、摩り替わっており、慌てふためくウィルソンくんの目の前で私が丸太と入れ替わって、最初に携帯と入れ替わった丸太がウィルソンくんのもつ私の携帯と入れ替わって丸太の」
「ごめんなさい、どうか箇条書きでお願いします」
「アペリティフ
↓
携帯と丸太
↓
携帯と携帯
↓
丸太と私
↓
丸太と携帯
↓
丸太に座って携帯を交換。
主にこういった主旨よ」
「食前酒と丸太省略してもらえますか」
「いいわ。
どうぞ、木こりよ」
「あ、いいんですか?」
「ええ、いままでは私の木こり
これからは、貴方の木こりよ」
「僕、こんなところで生涯の伴侶をゲットする気なかったんだけど……あ、もしもし、木こりさんですか? もしもし……もしもーし!
……あの、藤崎さん」
「何かご用?」
「電話切れちゃってます」
「バッドエンドね」
「ど、どうしましょう。木こりさん怒っちゃったのかな」
「では、かけなおして謝りましょう」
「え、ぼ、僕がですか? 嫌ですよ! 木こり、怖いですよ!」
「多少の大激怒はやむを得ないわ。
木こりいらずんば大激怒、ね」
「諺の捏造で激励しないでください!」
「なら、私に携帯を返しなさい。私が貴方と、貴方を産んだ両親の代わりに謝っておくわ」
「一回り事態が大きくしないでください
僕がかけます、かけますよ……どの番号にかければいいんですか?」
「メモリの、木こりよ。メモリアル木こりよ」
「あ、これか……名前とかないんですかこの木こり。
うー、嫌だなあ」
ピピピピピピピ
「わっ!」
「どうなすった」
「びっくりした、僕の携帯が鳴っ、えっ、え? 誰っ、えっ、ちょっとごめんなさい、一旦携帯返しますねっ、ちょっと僕の携帯出るんで」
ピッ
「もしもし?」
「ええ、もしもされたわ」
「あれっ、藤崎さ、え……」
「こんな距離で電話だなんて、ウィルソンくん」
「え、さっきの木こりの番号って、昔僕が教えた僕の……えっ、えっ!」
「あら、幸せそうな顔ね」
「だって!」
「山の幸? 海の幸?」
「僕の幸です!」
2009年09月08日 21:15
このシリーズ好き
投稿者 うn : 2009年09月08日 23:02
なんか女の方が戦場ヶ原ひたぎっぽい
投稿者 Anonymous : 2009年09月09日 10:41
藤崎さんシリーズ大好き!!
投稿者 Anonymous : 2009年09月09日 13:41