■ケホッケホッ

「顔にパンチを当てれたら認めてやる、だって? へっ、僕をナメてもらっちゃ困る! そんなの簡単さ、こうやって……」

ブンッ

「き、消えた?」
「残像だ」
「残像!? 残像っていうの!?」
「余りにも俺が早く移動したため、俺の姿だけが空中にしばしとどまる。それが残像だ」
「常軌を逸した速度が為せる現象ってことかよ……でも、だからって僕のパンチが当たらないなんて」

バンッ!

「パンチが当たらない……いや、届かない! 何かに弾かれてるみたいだ!」
「ククク」
「これはまるで……磁石だ! 反発しあう磁石の作用だ! 僕の帯びている電荷と同じ電荷を纏うことで、パンチが届かないようにしているんだ! えーと、そういうのって、えーと」
「電磁障壁だ」
「そう! 電磁障壁! そんな名前だった!
 よし、だったら電荷を逆にして、と。……これでどうだ、パーンチ!」

スッテーン!

「あれー! まるで柳のように僕のパンチをかわした! 僕のパンチが剛だとするならこの動きは柔! えっと、それって何で? どういうの?」
「貴様の力の流れを読み、その流れに逆らわず受け流したに過ぎん」
「え、そういうの、って……何て……いうの?」
「……」
「え、もう学校で習ってるところ?」
「ククク」
「え、ちょっと待って、待ってね。
もしもし、もしもしおじいちゃん!? えっとね、聞きたいことあるんだけど、ううん違うアボカドの栄養価の話はもういいの、えっとね、力の流れを読んでそれに逆らわず受け流す柔の拳って、何ていうの? え? いや違う、東京ドーム何個分のビタミンとかじゃなくて、柔の……流水風舞? ホント?

流水風舞!」
「愚かな……」
「違うって! 違うよ! 多分名前変わってるんじゃない今? おじいちゃんの時代の呼び方でしょそれ!」
「流水風旋、だ」
「ニアミスだった! 意外と当たってたごめんねおじいちゃん!
よし、でもお前の残像と電磁障壁と流水風旋は覚えたぞ! もうパンチは当たるはずだ、えーい!」

ぺローン!

「えー! 気づいたらパンチをする前に戻ってる! 僕がパンチをしたという事実そのものが何者かに消されたみたいだ!」
「フッ……」
「時空の流れを操り、自分以外の空間を完全に制止させる」
「あ、時空転回掌!」
「のは時空転回掌です、が、では今私が貴様に対し行った事象の結果を丸ごと歴史から消し去ってしまう奥義は何でしょう?」
「ひっかけー! ひっかけとか卑怯だよー!」
「ククク」
「時空を操ってるわけじゃないから、時空なんとかじゃないんだよね……事象……事象転回掌……」
「チッチッチッチッチッ」
「ちょっとちょっとちょっと! カウントダウンとかやめてよ! さっきまでやってなかったじゃん!」
「ククク」
「事象転回掌!」
「ククク……
 クックックックックッ」
「えー! 笑い声かと思ったらカウントダウンだった! 違うの? 事象転回掌じゃないの!?」
「ヒント」
「ヒント!?」
「お母さんが毎日使うものです」
「えー……お母さんがぁ~?

 ……天地撃滅破だ!」
「愚かな……」
「えー!?」
「まーくーん! 入るわよー!」
「あ、お母さん!」
「お夜食ですよー。あ、先生もよければどうぞ」
「ククク」
「あらやだ先生ったら、お上手! もう、こんなおばさんからかっても何も出ませんよ~!」
「ククク」
「あ、そうだ、お母さん! お母さんが毎日使うものでぇ、事象を無かったことにするのって何?」
「え、そんなの自分で考えなさい! ね、先生?」
「ククク」
「えーもーケチぃ~! あ、オレオ最後の一個もらいっ!」
「こら! 先生がオレオを食べるために顔の包帯解いてる最中でしょ! 意地汚いことしないの!」
「へへーんだ! 早い者勝ちだよ~!」
「まこと! こらっ! もう怒ったよ~! 天地撃滅破!」


2009年09月16日 20:34