■全国展開チェーン湖の接客レベル

「さあ今日も俺は木こりとして木をこりってそれ使い暖を取ったり食料を保存したり家具を作ったり新型プレイステーションのモックアップを作って企業のコンペに応募したりす、わー!!」

ぼちゃーん

「あー! あーあーあー……上述したような目的を成就させる手段すなわち斧が池に落ちちゃった……大事な手段もとい斧だったのに……」

ごぼごぼごぼ……

「お、おや? 湖面が泡だって……」

ざばーん↑

「わっ! あっ、えっ、女神、様? もしかして、池の女神様!? これは……噂に聞く……金の斧銀の斧!? よかった! 災い転じて福とな」 

ざばーん↓

「待って待って待って」
「何」
「いや女神様、出てきてくれたのに何で速攻沈むの! あれでしょ? あなたが落としたのは~っていう例のアレをしにきたんでしょ?」
「違うけど」
「うわー無意味な語尾の逆接が凄いムカつく。え、だって、ざばーん! って出てきたじゃないですか」
「いや、自動だからコレ」
「自動……?」
「木こりが斧落としたら自動でせり上げられんの。ウチら」
「斧キッカケなんだ、え、でも、ってことはどちらにせよ僕の斧返してくれるってことじゃないんですか?」
「あのさー、あー、じゃあ凄い分かり易い例えしてあげる」
「はい」
「例えばコンビニとかで客が入ってくるとするじゃん」
ごぼごぼごぼ
「そしたら何かチャイム鳴るじゃん」
ごぼごぼごぼ
「で、そうなると店員は客が何も買わなかったとしても一応レジには居なきゃいけないじゃん」
ごぼごぼごぼ
「そういうわけなんで」
ごぼごぼごぼ……
「待って待って待って」
「何。キモい。何かしらキモい」
「得体の知れないキモさは謝りますけど、説明聞かせながら沈むの卑怯でしょ!」
「ちょっとうるさくしないでよ。二階でお爺ちゃん永眠してんだから」
「だったらどの道起きないでしょ。
 え、じゃあ今の例えでいうなら、僕はモノを買う客ですよ!
 だって斧返して欲しいし!」
「あー」
「うわすげえめんどくさそうな顔した」
「んー、じゃあ、どんな斧?」
「え、そりゃ、普通の斧……」
「ハッ」
ごぼごぼごぼ
「待って待って!」
「普通ってアンタねえ。見つける気全然ないでしょ」
「え!? だって金の斧銀の斧だったら……」
「知らないけどさそんなの、斧返してほしいんでしょ? アンタ湖底に何本斧と白じゃないたまごっちが転がってると思ってんのよ」
「いや後者はただのブームの犠牲者ですけど。えーと、じゃあどういえばいいんですか?」
「はぁ。えー。まず、色は?」
「えと、柄の部分が茶色です。樫の木製の」
「か、しの木……かしってどんな字だっけ」
「あ、木偏にですね、孫堅の」
「カタカナでいいや」
「……」
「で、大きさは? どのくらい?」
「そんな大きくは無いです。手斧サイズの……」
「あそ。じゃ、この空欄に出来るだけわかりやすいイラスト書いて。あと連絡の取れる携帯番号」
「え、はい。

……どうぞ」
「はい。えーじゃあね、一応見つかったら後でまた連絡しますんでね。はい、お疲れ様ですー」
ごぼ
「待ったー!」
「止めんの慣れてきたわねアンタ」
「ちょっと待ってくださいよ! 何すか今の!
 俺デパートで財布落としたとき似たような対応されましたよ!」
「誠意ですけどー」
「語尾をのばすな! 見つけたら連絡します、って、どう考えても探す気ないときの対応でしょ!?」
「じゃあどうしたらいいの」
「今すぐ見つけらんないんですか!? さっき落としたばっかなんだから、すぐ探せば……」
「だからねえ、湖底に一体何本の斧とファミコン版のスプラッタハウスが転がってると思ってんのよ」
「後者は出来が悪かったからですよ! 実際斧なんて何本も無いでしょ、お願いしますよ、大事な商売道具なんですから……」
「わーったわーった、聞いてみますから、ね、少々お待ちくださいや」
「聞くって、一体誰に」
「拾得係」
「いるんだ」
「あーもしもしー? えーと、あの斧なんですけど、ええ、今日です。はい。届いてないです? 何か、樫の木製で、あ、ない、あ、そうですか、はーい、どーもー。

……」
「その『今の会話で大体予測つくでしょ?』って目やめてくださいよ! 伝えるのすら億劫なんですか!」
「無いって」
「知ってるわ!」
「じゃ」
「待ってー! わかりました! わかりましたから! 最後にちょっとだけ探してください! あの、ここ、この辺に落ちたんです。だからこの辺だけでも探してください!」
「探したら帰ってくれんの」
「帰ります! 諦めますから! だからお願いします!」
「えー。ここ?」
「はい、その辺に落ちてるハズなんです!」
「ちょっとまってね、んー……」
「え、ちょっと、目なんか閉じて、全然探してないじゃないですか」
「黙って。集中が途切れる」
「もしかして、超能力的な……千里眼か何かで探してる……!?」
「んんん……!」
「凄い! やっぱり女神様は凄い!」
「んん……あーダメだー。やっぱサンダル脱ぐー」
「え、超能力ですよね? 千里眼ですよね!?
 まさか、足で探してないですよね!」
「あ!
 あ、これ塩素の玉か」
「アンタ目開けて潜れない小学生かよ! ちょっと、人の斧を足で探すのやめてくださいよ!」
「あった、棒状、これだ」
「えっ、ホントですか?」
「ほれ」
ざぱー
「足の指の股で挟んで渡すなー! せめて手で、最後は手で渡してこいよ!」
「嫌なら捨てるけど」
「受け取ります! 受け取ればいいんでしょ! もう……二度とこんな湖に斧を……あれ?」
「ん」
「斧じゃ、ないですよこれ。何ですかコレ」
「あ、スーパースコープだね」
「……。
 僕が落としたのは、スーパースコープじゃないんですけど」
「正直でよろしい」
ごぼごぼごぼ
「待てコラー!」

2009年09月20日 19:36


女神がかわいかったらいいじゃない

投稿者 ナム湖 : 2009年09月22日 09:06