「あの、藤崎さん」
「なに」
「ええと、あの、こんなこと言うと何だけど」
「何なの?」
「あの、僕たち本当に付き合ってるのかな、って」
「付き合っているわ」
「ほ、本当?」
「ええ、真実よ」
「でも、何かあんまりそんな感じしなくて……」
「無理もないわ
 私は貴方とだけ付き合ってるわけではないもの」
「え! それは、他にも、えと、藤原さん、まさか!」
「そうね、その『まさか』よ
 貴方以外にも、鳥や空、森や雲、この遥かなる大地とも私は付き合っているわ」
「僕の『まさか』じゃないやそれは」
「でも心配しないで、貴方とももちろん付き合っているから」
「うーんー……思っているのとは違ったけど……うーん」
「嫉妬?」
「いや、嫉妬っていうか」
「とんでもない嫉妬?」
「何で勝手にランク上げたの
 いや、なんか複雑な気分だよ」
「そうね、貴方の気持ちもわからなきにしもあらずよ
 でもね、聞いてボブ山くん」
「大村です」
「貴方には無いものを、大地は凄くいっぱいもっているのよ」
「いや、それはそうだけど」
「貴方は、坪辺りいくら?」
「へ?」
「この辺りの大地は坪500万はするわ
 あなたは坪いくら?」
「いや、いくらとかないと思うよ
 だって、僕の上に家は立たないし」
「それよ」
「え?」
「あれよ」
「どれなの」
「まさにそういうことなの
 『天は人の上に家を作らず』
 昔の人は上手いこと言ったものね」
「すごい濡れ衣だよ」
「人には限界があるの
 だから私は、大地とも付き合っているの」
「えと、藤原さんは、家を建てたいから大地と付き合っているの?」
「私はそういう女よ」
「そういう女を過去に知らないけど
 でも、別に付き合う必要はないんじゃ」
「とんでもないことを言うのね」
「とんでもない?」
「じゃあいいわ、考えてみて
 もし死後山くんが」
「大村です」
「貴方と付き合ってもいない女性が
 貴方の上に家を建てたら、どう思う?」
「いや、それは嫌だよ。意味もわかんないし」
「そうでしょう。
 付き合ってもいないのに家を建てるなんて
 ヨコエソが男らしさに目覚めるようなものだわ」
「喩えが深海すぎてわからないよ
 でもちょっとまって、だったら付き合ってたら家を建てていいってことなの?」
「そうなるわね」
「じゃあ、藤原さんは僕の上に家を建てたり……するの?」
「わからないわ」
「わからない?」
「昔の私なら、そうだったかも
 建築を前提に付き合っていたから」
「どういう付き合い方なのそれ」
「でも私、まだ叔父山くんが」
「大村」
「貴方が何LDKかもわからないもの」
「人生で初めて自分の間取り聞かれたよ
 いつも藤原さんはそうやってはぐらかすんだね」
「遺憾に思うわ」
「いいよ、もう
 あんまり考えないようにする」
「あら、そう」
「僕、もう帰るね
 何だか疲れちゃったし」
「そう」
「じゃあね、さよなら藤崎さん」
「40万」
「え?」
「貴方よ」
「僕?」
「坪40万、よ」
「……まだ、この辺の大地よりは、安いね」
「そうね
 でも、私の手の届く値段よ」
「なら、いいかな
 じゃあね藤崎さん」
「またね。大村くん」
「うん、またね」