「はい、じゃあ遠足に関するお知らせはこれで全部だ。
 何か質問あるやついるかー」
「はーい、せんせぇー」
「どうした、土田」
「おやつは300円までですかあー?」
「そうだぞ、だからちゃんと考えて買わないとダメだぞ」
「せんせぇ! バナナはおやつに入りますか?」
「ははは、安心しろ、バナナはおやつに入らないぞ」
「先生」
「どうした」
「バナナ目当てで遠足に参加してもいいですか」
「先生初めて目にするモチベーションだぞそれ
 バナナ好きなのか?」
「はい」
「じゃあ、何本でも持てるだけ持ってきていいぞ?
 なんてな、ははははは!」
「軽トラは弁当箱として認められますか」
「お前何トン持ってくるつもりだ。
 そこまでバナナに情熱傾けても喜ぶのは東南アジアの人ぐらいだぞ、ほどほどにしとけ
 他に質問ある奴いるかー」
「はい」
「ん、何だ?」
「人はいつか土に還りますか」
「うん、難しい問題だな。シンプルに答えるとイエスだけど、それでも精一杯生きるのが先生大事だと思うぞ」
「天に昇っていった魂は、幸せであると言えますか」
「うん、また難しい問題だな。結果はどうあれ、幸せだと先生は思うぞ」
「うんこ行ってきていいですか」
「哲学のすぐあとにうんこを持ってくるって、凄い気圧差だぞ。先生高山病になっちゃうかと思ったぞ」
「バナナはうんこに入りますか」
「いいから早く行ってこい。そしてお前なりの答えを見つけろ
 さ、他に質問あるヤツいるかー?」
「せんせぇーおやつの300円には、しょーひぜい入りますかぁ?」
「お、いい質問だな。安心しろ、消費税は入らないぞ?」
「手数料は300円に含まれますか」
「あんまりATMに無理言うのは良くないと思うな先生。お母さんにもらいなさい、ね?」
「10%複利だと遠足が終わる頃にはいくらになってますか」
「悪かった。無理するな。無理しなくていい。先生が貸してやるから無理するな」
「300円に振り回される人生は滑稽ですか」
「そんなことはない、そんなことはないぞ! 大丈夫だ全然大丈夫だから」
「300円以下の人生でも、魂は天に
「還る還る、還るとも。お前はきっと幸せになれるとも」
「先生」
「どうした」
「うんこ流してきていいですか」
「何で放置して帰ってきたんだお前は、流して来い、行ってこい早く」
「先生」
「何だ」
「僕は寝るとき裸です」
「うんこ流して来い早く」


「はいじゃあ今日の授業は俳句を作ってみましょう。
 それじゃあ、優子ちゃん! 何かできましたか?」
「は、はいっ。え、えっと……、
静けさや
  岩に染み入る
   鳥の声
 」
「はーい、上手にできましたねー!
 優子ちゃんはうまく昔の俳句を自分流にアレンジしたね!
 どこかで知ってたのかな?」
「は、はい、お父さんが言ってて」
「そっかそっか、上手だったよー。
 はいじゃあ、次は……タカシくん!」
「はい。

 あばずれめ
「タカシくんタカシくん?
 どうしたのかな、先生の聞き間違いかな? もっかい言ってくれる?」
あばずれめ
「ターカーシーくん!?
 どこでそんな言葉覚えたのかな、はっ、あははっ」
「季語は北新地です」
「タカシくん慎もう? ちょびっと慎もう?
 ほら、優子ちゃんみたいに、もっとこう昔の俳句を使うとかね」
古池や
 蛙飛び込む
「そうそうそう!」
   あばずれめ
「タカシくーん! どうしてもかな、どうしてもなのかな?
 無理を通したい年頃なのはわかるけど、どうしてもあばずれにこだわっちゃうかな?」
「あの女は、俺の心に寂しさという名の傷跡を残していった」
「そういうどうでもいい詩的さは持ち合わせてるんだね。
 ちゃんと作ろうか、ね? 国語の授業に痴情持ち込んじゃ駄目だと先生思うな、ね?」
あばずれと
「経験談もよそうか! 軽く道徳の授業に足つっこんじゃうからよそうか!」
「季語は野外で三回です」
「わかんない! 先生わっかんないなー!
 季語だけで八文字使ってるし、季節がいつかもわかんないし!」
「夏です」
「知りたくなかったなー! まあ大胆になる季節だからね男も女も!」
「あの女から俺は恋愛というものを学んだ」
「今は俳句を学ぼうか、ね?
 ほら、あ、じゃあ先生言うから続けて言ってみようか
 はい、じゃあ、最初は『古池や』」
古池め
「タカシくんタカシくん」
古池京子め
「あービンゴだったかー図らずも傷口えぐっちゃったかー。
 まさか芭蕉も自分の俳句が小学生の痴情をえぐるとは思わなかっただろうねえ」
古池京子の旦那め
「小学生に不倫はリスキーだと思うな!
 オタクの趣味馬鹿にするぐらいリスキーだと思うな!」
慰謝料を
「オッケー 教諭ストップかけるよ! 心のタオルをばんばん投げるよ
 じゃあ今日はここまで! 一応皆も行きずりの女とは割り切って付き合うようにね、っていう授業でした!」


「ねえねえたくや~」
「うぅん、どうしたのみほにゃん!」
「ここでなぞなぞです!」
「お、よーし、一発で当ててやるぞ!」
「うふふ、いくよぉ
上は洪水、下は大火事みたいに激しい恋愛で始まった二人なのに最近ではすれ違いばかりで、このままじゃ私たち二人とも駄目になっちゃうかもって思いながらも移り行く季節に逆らうことも出来ずにずるずると悪循環の輪の中を転がり落ちていく。そんなある日、友人の紹介である男性に出会う。初対面なのに初めて会う気がしなくて、しゃべっているうちにどんどん彼の持つ『世界』に引き込まれて行き、最初はちくちくと良心を刺激していた彼氏のことも、目の前の魅力的な『世界』を持つあの人の前には薄れていき、そして私は違う道を歩むことを決意して貴方に自分の気持ちをありのまま伝え、そして別れようと思うけれどここに来てなぜか止まらない涙をごまかすために私がさっきまで入ってたものな~んだ!?」

「風呂」
「ピンポーンせいかーい! 嬉しい!?」
「いや」


「あなたは鳥です。大空をはばたく鳥です……さあ、私が3,2,1の合図で手を叩いたら貴方は鳥になっています、いいですか?
 3,2,1……さあ、貴方は鳥になりました!

 さあ、貴方は鳥です。大きな翼が見えますか? 見えますね。
 では早速大空を羽ばたきましょう、あなたは大空を自由に飛んでいます
 気持ちがいい、とてもいい気持ちです。おや?
 どうやら今月の家賃の支払いを忘れてしまっているようですね、郵便局にいきましょう

 さあ、貴方はポーチから通帳を取り出してATMで家賃を……
 できない? なぜですか、貴方は鳥です。自由に家賃を振り込む鳥なのです。
 さあ通帳を取り出して……くちばしで……そう
 さあ、暗証番号を打ち込みましょう。
 そう、気持ちがいい、とてもいい気持ちで暗証番号を打っています。

 さあ家賃も振り込んだことだし、また大空を羽ばたきましょう!
 自由に空を飛ぶのはとても気分がいい!
 町もビルもぐんぐん追い越して、スピードもどんどん上がります!
 さあ! そろそろ第一宇宙速度を突破しましょう!
 大気圏を突破しながらメスに求愛行動を……ん?
 何、できない? できないことはありません、あなたは鳥です。NASAの開発した鳥なのです。
 さあ、大気圏との摩擦熱で素揚げされながらも大いなる宇宙に羽ばたくのです!

 何ですかその目は。
 鳥は大気圏突破できないとでも言いたげですね。
 できますよ。
 あ、もしかして知らないの?
 スズメとかでもできるよ
 いや、カラスとかふっつーによっゆーでできるよ
 あいつら黒いじゃん? 何でや思う?
 あれな、宇宙で孵化してから大気圏通って地球に来るからやねん
 大気圏でこんがり焦げるから黒いねん
 な、行けるやん、ホラ、ホラホラ
 はーい大気圏イッキイッキイッキイッキ! はい行ったー! ナイスこんがりー!

 はいじゃあ大気圏突破しながらショートコント「医者」

 『先生、僕はガンなんでしょうか
 黙ってないで何とか言ってください!
 ガンなんでしょ! わかってるんですよ!
 もう余命いくばくも無いんですよね!

 なんでずっと黙ってるんですか!
 僕の病気が何なのか、ちゃんと言ってくださいよ!』」

「……ホケキョ」

「『ふざけてるんですかー!』」


「はいどーもー。うんこプリッツでーす」
「よろしくお願いします」
「はーい、よろしくお願いしまーす。いやー頑張っていきましょうねえ」
「うん、頑張っていこう
 これが、最後かもしれんから」
「いや初っ端から重いな。
 最後じゃないですよー、次もありますから、ね」
「わからないだろ、最後じゃないなんて」
「いや、だから」
「この漫才終わったあと、死ぬかもしれないじゃないか!」
「まてまてまて、お客さん引くからそんなこといったら
 死ぬわけないだろそんなすぐに」
「わからないだろそんなこと!
 今日の帰り道に、道路に飛び出したメンチカツかばってダンプに轢かれるかもしれないじゃないか!」
「どんな死に方だよお前
 かばって死ぬ相手ぐらい選べよ」
「じゃあお前はメンチカツを見殺しにしろっていうのかよ!」
「しろって言うよ、全力で言うよ
 大体あいつら死んでっからね?
 死んだ上にこねこねされて油で揚げられてっからね?」
「要するに一分一秒を大事に生きていこうって、そう言いたいんだよ!」
「重いんだってその心構えが」
「いいか、俺が今から全力でボケるからな
 だから、お前も全力でつっこめよ、いいな」
「まあ、うん」
「いやあ衣替えの季節ですね……僕も寒くなってきたから冬服出しましたよ……でも全部……
 半袖です! けど! ね!」
「つっこみにくいわアホ
 テンション上げるボケじゃねえだろそんなの」
「……さない」
「え?」
「何故、全力を尽くさない!」
「はあ?」
「そんな軽いツッコミじゃない! もっと全力で来いよ!」
「だからそれうっとうしいって」
「殺すつもりでつっこめよ!」
「どんなツッコミだよそれ」
「俺はいつ殺されてもいい覚悟でここにいるんだよ!」
「いや、だから」
「遺書も書いてから来てるんだ!」
「なんでー!?
 お前いつも遺書書いてから漫才してんのかよ」
「そうだよ、だから遺書ももうジャンプぐらいの厚さになっている!」
「一枚でいいだろそんなの、何で何枚も書いてんだよ」
「週刊少年遺書だ!」
「誰が読むかアホ
 だから死なねえって言ってんだろ」
「言い切れないだろそんなこと!
帰り道に、チキンカツの身代わりに銃で撃たれて死ぬかもしれないだろ!」
「何でさっきから揚げ物ばっか助けようとしてんだよお前は」
「俺は真剣なんだよ! この漫才に真剣なんだ!」
「いや俺も真剣だけど」
「結婚を前提に漫才してるんだよ俺は!」
「えー!?
 お断りしますけどー!?」
「わかった、じゃあこう考えよう
 俺が人質に取られてて、漫才が受けなかったら俺が死ぬ
 こう思えば真剣になれるだろ」
「いや意味がわからねえから」
「よし、やってみよう!」
「やんのかよ」

「はいどーもー うんこプリッツでーす」
「んー! ん、んー!」
「いやーめっきり寒くなってきましたねー」
「んんー! んー!」
「衣替えとかしてますー?」
「んー! ぷはっ、助けてっ、たすっ、助け、んー!」
「いやー冬服とかもう出しましたー?」
「んー! ぷはっ、だっ、出します! 冬服でも何でも出しますっ! だから命だけはー!」
「やっぱやりにくいわ、いい加減にしろ」


ママただいまー
あれ、いないのかな、ママー?
おや?
机の上に書置きがあるぞ、どれどれ

「ゆうさくへ
 ママはちょっとアレをナニしてきます
 戸棚の中におやつがあるから
 レンジでチンして食べなさい」

なんだママ出かけてるのか
戸棚の中におやつだって、何かなー

はりはり漬けじゃないか!
こんな食感を楽しむタイプの漬物なんか
たとえ今が大正時代でもおやつとは言い難いよ!

でも一応チンしてみようかな
湧き上がる好奇心を抑えられない年頃のせいにして
漬物をレンジに入れる子供に、今だけなるよ

チン!

あ!
チンしたら漬物に文字が浮かび上がってきたぞ?
なになに

「ゆうさくへ
 好奇心に負けて漬物をチンするなんて!
 もしそんなことがよそ様にバレたら
 精神鑑定の結果を持ち出しても言い訳できるかどうかわからないわ

 そんなことより、本当のおやつが
 戸棚の裏にある、裏戸棚に入ってます
 バーナーで焼き色をつけて召し上がれ」

ママったらおてんばだなあ!
おてんばって言葉でカバーできる年齢を2ダースぐらい上回ってるくせに!
裏戸棚なんて、そんなものうちにあったんだ。
どれどれ、あ、本当にあるぞ
裏戸棚が本当にあるぞ
そしておやつらしきものの存在も確認できるぞ、どれどれ

眠眠打破じゃないか!

何で世間が一番油断する時間帯にこんなガチで覚醒しないといけないんだよ!
ママには僕が土方か何かに見えるっていうの!?
こんな残業のお供なんかに、おやつとしての権利を認めるわけにはいかないよ

でもバーナーであぶってみようかな
僕ぐらいの年齢ならカエルのケツに爆竹つっこむのも、眠眠打破あぶるのも
「冒険」の一言で済まされるだろうしね
ルフィが聞いたら麦わら全部ほどけちゃうぐらいビックリするだろうけど
これが僕の「大冒険」なんだから

ごぉー
ぶぉー

あ、何か文字が浮かび上がってきたぞ?

「ゆうさくのハゲ
 この文章を読んでるということは、眠眠打破をバーナーであぶったのね
 漬物チンに続いて眠眠バーナーまでやらかすなんて
 もうママ辞苑をもってしても、貴方を形容する言葉が見つからないわ

 でも本当の地獄はここからよ、ゆうさく。ハゲの。
 この文章を逆さにすると、地図が見えるはず
 その地図の先に、あなたの求めるおやつがあるわ
 あと一息よ、がんばるのよゆうさく。ハーゲ。」

いよいよ血縁を超えた怒りが湧き上がってきたぞ
でもしょうがない、ここで投げ出したら
それとなく晩のおかずが減りそうだし、最後まで付き合おう。

なになに、えーと、地図だって

これによると随分遠そうだなあ
遠そうだけど
それより居間の真ん中に置かれてる馬鹿でかい箱が気になるなあ
リビング、って言葉の意味さえぶれさせる存在感だけど

一応地図にそって歩いたりしないとダメなのかな
この箱が全然関係ないという可能性もあるし

よし、一応地図どおりに歩いてみよう!

* * *

やっぱり箱に辿り着いちゃうじゃないか。ママの馬鹿。ズベタ。
箱の中には今度こそおやつが入ってるんだろうな
もしおやつじゃなかったらこの家に火をつけて舞鶴に飛ぶよ
日本海の荒波は、きっと僕のすさんだ心も洗い流してくれるはずだから

ぱかっ

「ゆうさく! よくここまで辿り着いたわね!」
「ママ! 何してるのこんなところで!」
「ゆうさくがママのところまで辿り着けるかどうか、試したのよ!」
「すごい! 気象衛星からでも観測できるぐらい大きなお世話だね!」
「じゃ、ご褒美のおやつをあげるわ!」
「わあいおやつ!」
「はい! はりはり漬け!」

ごおー

「あ、熱っ、いやだわゆうちゃん、熱いわよバーナーは流石に熱いわ」

ぶおー

「もうゆうちゃんたら、甘えんぼさ、熱っ、あっつい」


「えーと、君がタカシくんかな?
 今日から君の家庭教師をすることになった山口だよ。よろしくねタカシくん」
「よ、よろしくお願いします……」
「それじゃあ、早速だけど、勉強していこうか!」
「あ、あの」
「ん? どうかしたのかいタカシくん?」
「いえ、な、なんでもないんです
 (ダメだ初対面なのにこんなこと聞いたら絶対変な子だと思われる
 でもどうしたらいいんだ、どうしても気になることがあるんだ僕には!)」
「タカシくん、全部聞こえてるけど」
「し、しまった! 僕ともあろうものが!」
「そういうリアクションとる人初めて見たよ先生
 何か気になることがあるのかい?」
「あ、はい……」
「何でも言ってごらん」
「あの、先生、先生は、本当に納得して僕の家庭教師をやっているの?」
「え?」
「無理してるんじゃないんですか? 本当はやりたくないのに……」
「あ、あははは、何を言ってるんだよタカシくん」
「そうだきっとそうだ、きっと家庭教師をしなければいけない理由があるんだ!
 はっ……! まさか、人質……?」
「タカシくん?」
「そうだ人質だ! 人質に決まってる! 僕の母さんに脅されているんだ!
 きっと母さんに大事なポテトとコーラとベーコンレタスバーガーを人質に取られてるんだ!」
「タカシくん、大丈夫だから
 先生バリューセット人質に取られたぐらいで言うこと聞いたりしないから」
「でなければ僕みたいな虫野郎に勉強を教えたりなんてしない!
 僕は虫野郎、ゴミ以下の虫野郎!」
「タカシくん!」
「あ、せ、先生!」
「大丈夫だから、そんなに心配しなくても大丈夫だから」
「先生……!
 でも虫野郎はいくらなんでも言い過ぎじゃないですか!」
「タカシくん、それ僕言ってないから
 君が自給自足した悪口だから」
「一寸の虫にもボブの魂ですよ!」
「五分な五分
 ボブってどこの黒人なんだよ
 あと失礼だよボブにも
 
 タカシくん、心配しなくても大丈夫だから、ね?」
「先生……!」
「じゃ、数学やろっか。
 教科書開いてタカシくん」
「はい、でも、この教科書は僕に開かれることに納得してますか?」
「してる、してるよ大丈夫だよ」
「本当に? 本当に大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ、さ、ほら、開いて」
「ダメだ、きっと開いた瞬間、問題がささっとどこかに隠れてしまうに違いない!」
「土手の石の下にいる虫じゃないんだから。
 問題は逃げも隠れもしないよ」
「逃げも隠れもしないんですか!?」
「ああ、しないよ」
「ってことは僕、ナメられてるってことですか!」
「なんでそうなるかな
 大体文字は動いたりしないんだよ」
「僕が虫野郎だから、ナメやがって!
 ぶっ殺してやるー!」
「教科書開くのにそんな掛け声した子、初めて見るよ」
「はあ……はあ……」
「あ、汗だくだねタカシくん
 クーラーでもつけようか」
「ダメだぁー!!」
「もう怖いよタカシくん
 今度は何なの?」
「どうせクーラーも、僕を冷やすことに納得なんかしてないんだ!
 僕を冷やしながらも、心の中では他の女のことを考えてるんだ!」
「どんだけジゴロなんだよこのクーラー」
「冷ややかな目で僕を見てるに決まってるんだ!
 クーラーだけに!」
「結構余裕はあるんだねタカシくん
 もう先生も暑いから、クーラーつけるよ」
「だ、ダメだ先生! 先生、あーっ!

 先生がつけたんだからね! 僕じゃないからね!
 僕は止めたけど先生がつけたんだからね!」
「クーラーに何を叫んでるんだよタカシくん」
「あああ……
 先生、もう今日は帰ってください……!」
「あ、まあ、そうだね。また後日、落ち着いてるときに勉強しようか
 じゃ、今日は僕これで帰るよ」
「あ、待ってください!」
「ん?」
「先生は本当に納得したうえで帰るんですか!?」
「もういいよ」


「はいどーもー。浪花モトリー&クルーでーす」
「………」
「いや、ほら、お前もちゃんと挨拶しろよ。どーもー! ねー、いやー」
「……ども」
「元気出せよーオイ、どした?
 何か気分でも悪い? 大丈夫?」
「……いや、目が」
「目? ああ、さっきからなんかしぱしぱやってんな
 何、目にゴミでも入ったの?」
「いや……目にゴミ野郎が入った」
「ゴミ野郎って何だよ、どういうことだよ」
「三十歳で実家暮らし」
「いやゴミ野郎のプロフィールとかいいから」
「趣味:インターネット」
「いや、だから」
「無職」
「ゴミ野郎だなー!
 三十歳でニートは相当ゴミ野郎だなそいつ!」
「痛てー…」
「そりゃ痛いだろそんなゴミ野郎が目に入ってたら」
「『産んでくれなんて言ってねーだろ!』 とか言ってる」
「痛いのは発言の方か! 確かにイタいけどその発言!」
「『別にやればできるし!』」
「イタいなー! やらないのはできないのと一緒だぞ!?」
「『俺この頭脳のまま子供になったら、最強じゃね?』」
「イタいイタいイタい! どうせ努力しないんだから二十歳ぐらいで並ばれるよお前なんか」
「あ、取れた」
「取れたの?」
「うん、カナダにダンス留学いったっぽい」
「うわー絶対二ヶ月で帰ってくるぞそれ」
「ごめんごめん、続きやろう」
「あ、はいはい。いやー最近はすっかり涼しくなってきたねー」
「……」
「ちょっと、どうした今度は?」
「いや、鼻……」
「またゴミ野郎?」
「いや、クズ野郎が入った」
「どーなってんだよお前の鼻と目は!」
「あ……くしゃみ出そう……くしゃみ……」
「おいおい」
「は……は……っ
 『二浪して入った大学中退』っ!」
「どういうくしゃみなんだそれ」
「は……っ
 『フリーターなのに社会人に説教!』っ!」
「クズ野郎だな!
 『夢捨ててまで金欲しい?』とか言っちゃうんだろうな」
「はっ……
 『しかも仕送り五万!』っ!」
「クズにも程があるだろ! せめて全部自力で稼いでから説教しろよ!」
「はっ……
 『三年前から自分探し中』っ!」
「もう見つけれない自分を現実として受け入れろよ」
「『ラブホから出てくるカップルをオカズに!』っ!」
「エロ本ぐらい買えよクズ!」
「『そこ俺のパンチラスポットだぞ!』っ!」
「しらねーよ、何の縄張り争いなんだよそれ」
「あ。
 取れた」
「取れたの?」
「うん、実家帰ったっぽい」
「まあ、ありがちな末路だな。
 じゃ、漫才の続きやろうか」
「あ、いたっ、いたたたたたた!」
「どうしたどうした、今度はなんだ」
「いや、さっきのクズ野郎がゴミ野郎になって戻ってきた」
「いい加減にしろよ!」


世界格言特集

「そうだ、人生はすばらしい。――何より大切なのは勇気だ。想像力だ」
  チャップリン

* * *

1.2.3.4 プリキュア 5!

プリティ キュ・キュ・キュ・キュア (Yes!)
エブリバディ Yes,ファイト! (Yes!)

ドキドキ ぱあっと笑って スマイル go go! (プリキュア~! Yes! プ・リ・キュ・ア・5!)

大きくなったら 何になりたい? (な・ん・に なる・なる・の?)
両手にいっぱい 全部やりたい! (いっ・ぱい や・り・た・い!)

問題が 解けない ナミダは
ココロの 消しゴムで消しちゃおう

メタモルフォーゼ! (Go!)

夢みるため生まれた (1、2、3・4・5)
翔べるよ がんばる女の子 (5、4、3・2・1)

勝ち負けだけじゃない
未来へ あすを ぬりかえてく

ピンチから (Go!) チャンスへ (GoGo!)
タフに変身! (Go Go Go Go!Yes!)

プリティ キュ・キュ・キュ・キュア (Yes!) エブリバディ Yes,ハッスル (Yes!)

ドキドキ ニッと笑って スマイル go go! (Go!)

1.2.3.4 (Yes!) プリキュア 5!

* * *

1.2.3.4 プリキュア 5!
  アインシュタイン

プリティ キュ・キュ・キュ・キュア (Yes!)
エブリバディ Yes,ファイト! (Yes!)
  キルケゴール ―「死に至る病」―

ドキドキ ぱあっと笑って スマイル go go!
(プリキュア~! Yes! プ・リ・キュ・ア・5!)
  サミュエル・ジョンソン ―「ジョンソンのボズウェルの生活」―

大きくなったら 何になりたい? (な・ん・に なる・なる・の?)
両手にいっぱい 全部やりたい! (いっ・ぱい や・り・た・い!)
  ショーペンハウアー ―「パレルカ-ウント-パラリポメナ」―

問題が 解けない ナミダは
ココロの 消しゴムで消しちゃおう
  ルソー ―「社会契約論」―

メタモルフォーゼ! (Go!)
  ナポレオン―「語録」―

夢みるため生まれた (1、2、3・4・5)
翔べるよ がんばる女の子 (5、4、3・2・1)
  ロマン・ロラン ―「ゲーテとベートーヴェン」―

勝ち負けだけじゃない
未来へ あすを ぬりかえてく
  ゲーテ ―「警句的」―

ピンチから (Go!) チャンスへ (GoGo!)
タフに変身! (Go Go Go Go!Yes!)
  ヘルマン・ヘッセ ―「ゲルトルート」―

プリティ キュ・キュ・キュ・キュア (Yes!) エブリバディ Yes,ハッスル (Yes!)
  キルケゴール ―「死に至る病」―

ドキドキ ニッと笑って スマイル go go! (Go!)
  キルケゴール ―「死に至る病」―

1.2.3.4 (Yes!) プリキュア 5!
  キルケゴール ―「死に至る病」―

* * *

「そうだ、人生はすばらしい。――何より大切なのは勇気だ。想像力だ」
  チャップリン


「はいどーもー、機動戦士ICOCA・SUICAでーす」
「機動戦士ICOCA・SUICAのショート漫才
 『どういう漫才だかわからない漫才』」

「不死鳥といえばフェニックスですけどねえ」
「いやいや、そのゴマを先に使ったら蘇るもんも蘇らないでしょ」
「でもウキウキする」
「するかー!
 逆にほとんどが黄色になるわ!」
「しかしそこで一人娘が六人」
「来るかー!
 お前の中でアメリカはどういう国なんだよ!」
「うどんが巻きついてる」
「ああ、それはわかってんだ。何でそこだけ理解してんだよ」
「右から」
「やっぱわかってねえー!」
「六年二組vsビオランテ」
「さっきも聞いたわ! もうええわ!」

「続きましてー機動戦士ICOCA・SUICAのショート漫才
 『親戚向け』」

「たっくんに会ったんですよ」
「へえ、東京行ったんじゃないの?」
「いや、名古屋にいたの」
「名古屋て!
 どうやっても名古屋にはいないだろたっくんは!」
「スイカ食べながら」
「あるかー!
 たっくんがスイカ食べながら名古屋にいる世界が想像つかんわ!」
「大きくなってましたよー」
「あーそう、まあ五年経つしね」
「るり子ちゃんより」
「でかすぎだー!
 もう次に目指す目標は富士山ぐらいしかねーぞ!?」
「って言ってた。ズーさんが」
「信用できるかー!
 この世で最も信用できない情報だわそれ」
「名古屋で」
「だからあるかー!
 ますます信憑性無くなったわ!」

「続きましてー機動戦士ICOCA・SUICAのショート漫才
 『第一の犠牲者』」

「はいどーもー、いやー夏ですねー」
「そうですねえー夏と言えばやっぱりスイカっ
 うわっ…うっ、うわあああああああああああああああああああ!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」


「この洞窟に伝説の秘宝が眠っているんだな……!
 よし、入るぞ!」
「お待ちなさい」
「誰だ!」
「私はこの島の住人です。
 この洞窟に入るのはおやめなさい」
「なぜだ!?」
「この洞窟はとても危険なのです。
 今まで何人もの冒険者がここで命を落としました」
「ふっ、はははは! なんだ、そんなことか
 俺はトレジャーハンター・J! その程度のこと、既に承知の上で来てるぜ!」
「そうですか、わかりました。
 では私も一緒に入りましょう
 私はここの島の住人。何かの助けにはなれるでしょう」
「ふん! 勝手にしろ!」

* * *

「さすがに暗いな……」
「ライトとか懐中電灯とかもってきてないんですか
 トレジャーハンターのくせに」
「うるさいな。トレジャーハンターは夜目がきくんだよ!」
「じゃあ何で暗いとかいったんですか」
「いいだろ別に!
 お前だって夏とか暑いってわかっててても『暑いなー』って言っちゃうだろ」
「ああ、確かに」
「いいから進むぞ!」
「あ、そこ」
「いたっ!
 なんだ、罠か!」
「いや、そこ岩が出っ張ってて危ないです、ちょっと右寄りに進んだ方がいいですよ」
「そ、そうか」
「足元気をつけてくださいね。苔ですべりやすくなってますから」
「お、おう」
「あ」
「どうした! 罠か!?」
「こっからちょっとかがんでください。わかりにくいですけど、天井低くなってますから」
「あ、うん」
「あ、そうだ」
「どうした! 怪物か!?」
「ペンダント持ってるでしょ。エメラルドの。龍の彫り物のはいった」
「あ、ああ。
 これは親父の形見なんだ。
 『龍の眼に導かれしとき、汝の道は安息と平穏を得るだろう』
 この謎の言葉とともに親父はこのペンダント俺に託してくれたんだ……!」
「それ貸してください」
「へ?」
「いや、それでID認証できるんで。罠解除できるんで」
「……詳しいな」
「現地民なもんで」
「……やっぱお前帰れ」
「え、なんでですか」
「おもしろくない」
「はあ」
「面白くないんだよ!
 なんでお前こんな幻の遺跡にやたら詳しいんだよ!」
「はあ、だって修学旅行とか遠足とかここだったし」
「こちとら命がけの大冒険してきてるんだぞ!?
 ここに来る途中だって幻の海獣リヴァイアサンに襲われて死に掛けたりして!」
「ああ、それ鉄の船で来るから駄目なんですよ、金っ気に反応して襲ってくるんで」
「言うなやああ!!
 すっごい興ざめなんだってそういうの!」
「ムギムギはまともに戦うとアレですけど、卵は旨いですよ」
「ムギムギってなんだよ!」
「僕らリヴァイアサンのことそう呼んでますよ」
「現地独特の呼び方なんかどーでもいいんだよ!
 もうそういうのホントおもしろくないの!
 横でネタバレ言われながら映画観てる気分になるの!」
「じゃ僕どうしたらいいんですか」
「もっとこう、うわー! とか、ぎゃー! とかなれよ!
 そんでそこを俺が助けたりして
 『やっぱり僕は足手まといでしたね』
 『そんなことはない! 君も立派な戦士だ!』
 みたいなやり取りがあった後、お前のちょっとした機転で
 最後の扉が開くみたいな展開が燃えるんだろ-がー!」
「ああ、最後の扉はさっきのペンダントを逆さにして使えば」
「だから言うなやああ!!!」
「あーとにかく、あれですか、僕も少しは盛り上げた方がいいってことですね」
「ま、まあそうだ。ネタバレとかなしで頼むよせめて」
「わかりました」
「……!
 む、こんなところに沼が……
 洞窟内部に沼とは不自然だな、怪しい……
 何か投げ込んでみよう」

ジュッ!

「わ、コンパスが一瞬で溶けた!」
「ふん、やはり罠だったか。きっとこれは硫酸の沼か何かだな
 よけていこう」
「う、うわー!」
「何! 壁から無数の槍が!
 しまった、二段構えの罠だったんだ!」
「あ、危なかった……!」
「大丈夫か? もっと慎重に進まないと……」
「ぎ、ぎゃー!!!」
「上から巨大な岩が!」
「ふう、紙一重……
 う、うわ、うわーああ!」
「なんだと! コヨーテの大群が……!」
「何とか気づかれなかったみたいだー
 な、なんだこれはー!!!」
「前方から無数のレーザービームがー!」
「ふーよかった、危機一髪」
「引っかかれやああああああ!」
「へ?」
「何驚きながらも全部よけてんだよお前!
 一個ぐらい引っかかれ! 罠に当・た・れ!」
「無理無理、死ぬ死ぬ」
「もういいよもう、もういい!
 どうせこの調子だと宝も誰かにもう取られてるだろ!」
「ああ、いや秘宝はありますよ
 次の人が来るまでに返してくれれば」
「賞典返還かー!!
 もう帰る! 色んなヤツの手垢にまみれた秘宝なんかいるか!」
「あ、ちょっと」
「何だよ!」
「出口こっちですよ」
「ちくしょー!!!」


「さあ願いを言うが良い

 どんな願いでも一つだけかなえてやろう」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いでもそれは世界に一つ、お前だけの宝物」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、現実という壁に一度は阻まれるのだ」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願い?
 ねえ、どんなの? ねえ?」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、うちに出来る範囲なら叶えたんで」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、発送をもって当選と代えさせてやろう」

「さあ願いを言うが良い
どんな願いも、阪神の打線に例えてやろう」

「さあ願いを言うが良い
 いい年して恥ずかしくないのならば」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、素晴らしい思い出に変えてやろう」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも不自然に叶えてやろう」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、納得できる程度の言い訳を考えてやろう」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、叶えてやる気だけは満々だぞ」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いも、シェンロンに言伝してやろう」

「さあ願いを言うが良い
 どんな願いもそんな顔で言われたら……おばさん本気になっちゃうかも……」

「クリリンくん、話って……何?」

「どんな願いも、だいたい想像はつくけど」

「どんな願いも、味噌で煮込んで和風の味付けをほどこしてやろう」

「どんな願いでも一つだけかなえてやろう
 
 暇だし」


「あ、教室に忘れ物した。
 ちょっと取ってくるから荷物持ってて、はいっ。
 地面に置いたら殺すからね」
「え、あ、ちょと、宮村さん!
 もう……いつもこうなんだから……」

* * *

「きゃ~~~~~!」
「ど、どうしたの宮村さん!?」
「むむむむむ、虫、虫が!」
「え? なに?」
「あ、あ、あたしの机、え、え、うえに、虫!」
「あ、なんだ、虫かー」
「なんだとは何よ!」
「いや、宮村さんもかわいいところあるんだなあ、って
 たかが虫ぐらいでこんなに怯えるんだもの」
「だ、だ、だ、だってしょうがないでしょ! 私は昔からああいう黒くて羽があってちょこまか動くくせに体長25メートル体重500キロで口から鉄さえも溶かす硫酸を吐きながら九九の五の段を早口で叫び続け、毎週第二第三土曜日になると家族と一緒にディズニーランドに出かけてはミッキーをつかまえ触手を着ぐるみの間から入れて中身をチューチュー吸う習性を持つEXILEのガラの悪いグラサンの方よりも歌の上手い大型自動二輪の免許取得済みでおばあちゃんっ子の虫が大の苦手なんだからあ!」
「ごめん、たぶん僕もそれ苦手だわ」



「助けていただいたお礼に、竜宮城へお連れいたしましょう!」



「どうした? 手は使わないと言ったが、足を使わないとは言ってないんだぜ?」



「イヤよ。お母さんの連れてくる人変な人ばっかりだもん」



「しかし、あの洞窟に入れば二度と生きては戻れんかもしれんのじゃぞ?」



「マスター、俺はミルクを頼んだはずだが?」



「ここは酒場だ。酒を飲みな」



「じゃあお腹の赤ちゃんが、あなたの子じゃないって言ったらどうする?」



「え! 会ってその日にセックス!?」



休日のストーンヘンジ



「うわ、エヴァンゲリオンってこんなグロかったっけ」



「あれ絶対整形だよなー」



「僕が……"キラ"だ」



「え! 会ってその日にセックス!?」



「え! 会ってその日にセックス!?」



「え! 会ってその日にセックス!?」



<<一寸の虫にも五分のラブコメ>>


ぶーん

(キャッ! ふ、藤田先輩!)
(え、どこどこ!?)
(ホントだ! 私立第二モスキート高のプリンスこと、藤田先輩!)
(かっこいい……)
(ちょっと、サトミあんた藤田先輩見すぎよ! あんたみたいなヤブ蚊が藤田先輩と釣り合う訳ないじゃない!)
(そうよ! 噂だと藤田先輩、ヒトスジシマ高のチカさんと付き合ってるらしいよ?)
(マジ! チカ先輩って、もはや貴族じゃん!)
(それぐらいじゃないと藤田先輩とはつりあわないのよ!)
(でも、あたし、藤田先輩ならボウフラでも……)
(ちょっとサトミ、あんたロリコン?)
(ち、ちが!)
(あ、先輩、吸うみたいよ!)
(どこ吸うのかしら……先輩が吸うところ見るの、実習以来だし……)
(服の中入った!)
(ウソ! 難度βじゃん!)
(まさか先輩、ニンゲンのメスの胸の部分を吸う気じゃ……)
(確かに皮膚薄いし柔らかいし心臓近くて美味しいけど……でも、気づかれたら逃げられないし、リスク高すぎ……)
(え、えええ、吸った、吸ったーー! 吸ってる! でも気づかれてない!)
(すごいすごいすごい! かっこいいー!)
(……)
(あ、サトミ、どこ行くの)
(……藤田先輩の吸った場所……)
(あんたまさか!)
(えいっ!)
(吸ったー! サトミが吸ったー!)
(ちょっと! それ間接吸血じゃん!)
(しかも何!? そのディープ吸血!)
(藤田先輩! 藤田先輩!)
(ちょっと抜け駆けは許さないわよ! あたしも藤田先輩の吸ったところ吸うんだから!)
(どきなさいよ! ちょっと!)
(あたしも!)
(あ、あたしだって!)
(ちょ、狭い!)


* * *


「……うーん、あ、お姉ちゃん、おはよー」
「いつまで寝てんのよアンタ、って、

 ……

 何その胸」
「え? あ、え!? 凄い! 超でかくなってる! 凄い凄い!
 ねえこれアルファベットで足りるかな! 凄いって!」
「右の胸だけね」
「やったー!」
「やってないと思うけど」
「どうしようこれ! 学校行ったら『ぎょっ!』って言われちゃうよね?
 もうそういう意味じゃ、おっぱいっていうよりぎょっぱいだよね!?」
「今日学校休みな」


「ぐわあー! ぐへぇー!」
「おい大丈夫か魔法使い!」
「へへ……俺はもう駄目だ……」
「喋るな! 傷は浅いぜ!」
「わかるんだよ……俺はもう助からねえ……
 だがせめて勇者よ、これをもっていってくれ……」
「これは! 魔法の紋章!」
「その紋章に込められた魔力が、いつかお前の助け、に、ぐはっ!」
「魔法使いー!」

「クッソー! 魔法使いの無念を晴らすためにも必ず魔王を倒してやる!」

「ぐわあー! げろりー!」
「わー! 大丈夫か武道家!」
「ぐう……俺はもう駄目だ……」
「何言ってんだ、こんなのかすり傷だ!」
「どうやらかすっただけで死ぬ毒が武道家一人分塗ってあったみたいだぜ……」
「なんだって! くそー!」
「俺はここでリタイアだが、これを俺だと思って……」
「これは、お前の大事なダンベルじゃないか!」
「へへ……あばよ……」
「武道家ー!」

「クッソー! 武道家と魔法使いの無念を晴らすためにも!」

「ぐわあー! べろべろー!」
「あらー! 僧侶だいじょぶー!?」
「あたしはもう駄目よ……」
「何言ってんだちょっと漆にかぶれたぐらいで!」
「これをあたしのかわりに……」
「これは! お前の大事にしてた三国志全六十巻じゃないか!」
「必ず、世界に平和を……ガクッ!」
「僧侶ー! ちくしょー魔王め必ず皆のかたきを「ぐわあー! ずぎゃーん!」うわー! 言い終わる前に戦士がー!」
「へへ……もう俺はアレだからこれを俺の代わりに持っていけ……」
「これは! お前の大事にしてた延長コードじゃないか!」
「ぐわあー! わーい!」
「あー! 今度は何故かついてきた三姉妹がー!」
「ふふ……あたしたちの代わりにこれを」
「受け取れないよこんな大量のキーホルダー!」
「ぐわーあーあ!」
「あー! 後援会のみなさまー!」
「我々はもう何かダルいので……これを……」
「段ボール一杯のロール芯を僕に!?」
「ぎゃーす! これを……」
「ノック式ボールペンを二百本も!」
「あひゅー! これを……!」
「豆おかきを10キロだって!」
「よし! これを……」
「きびだんごを今さら!」
「えーと、これ……」
「お前の卒業制作じゃないか!」
「これ……」
「シャワーカーテン!」
「これ」
「残り湯!」
「これ」
「ポストイット!」
「これ」
「クリーニングタグ!」
「……」
「……!」

* * *

「大魔王さま! 大魔王さま!」
「なんだ、騒々しい」
「城に近づくものがいます!」
「なんだと? もしかして勇者か!」
「いえ! 違います!」
「じゃ誰だ!」
「軽トラです!」
「なんで!」
「わかんない!」


「ねえねえ、おばあさんおばあさん」
「なんだい? 赤ずきん」
「おばあさんはどうしてそんなに耳が大きいの?」
「お前のかわいい声をたくさん聞くためだよ」
「おばあさんはどうしてそんなに目が大きいの?」
「お前のかわいい顔をしっかり見るためだよ」
「そうなんだ」
「ふふふ、そうなんだよ」
(さあ聞け! 口のこと聞け! 何で大きいの? って聞け! そのときがお前の最後だ!)
「でも私も、おばあさんに負けないくらい耳とか目とか大きいんだよ!」
「あ、え、あ、そうなのかい?
 じゃあ赤ずきんちゃんの耳はどうしてそんなに大きいのかな?」
「それはね、戦場では耳が最重要といっても過言ではないからなの。
 草を踏む音、銃声との距離、敵の息遣い。
 状況を把握するとき、真っ先に使用するのが耳なのよ?」
「は……え、と、じゃあ、どうしてそんなに目が大きいのかい?」
「愚問だな。
 戦場において敵を肉眼で確認、あるいは戦況を把握するのは基本といっていいわ。
 耳で立体的に状況をとらえ、目でその動きを追う。この二つは生き延びるための鍵。
 身体能力や銃の腕前なんてこの能力の前では、赤ん坊のオムツぐらいの効果しかないのよ?

 五感をフルに開くことで、活路を見出すの。そうすれば窮地に陥ることもなくなるわ。
 だんだん相手の断末魔や、相手の血液の温かささえ楽しめるようになるの
 そうなって初めて、私たちレッド・ベレーの一員と、それでも新米だけどね、呼べるわ!」
「そ、そうかい」
「その点おばあさんはすごい! そんなに大きな目と耳があるんですもの!
 きっとおばあさんなら、あのアフガンの、熱砂と爆風と殺戮の地獄でもダンテをおんぶしてスキップで渡れるわね!
 ところでおばあさん、おばあさんの口はどうしてそんなに大きいの?」
「生まれつきです」


「とどめだ! 暗黒魔人! この俺の、聖覇粉砕牙でお前の野望を打ち砕く!」
「くくく! 馬鹿め! その技はワシには通じぬぞ!」
「何!」
「このワシの、天昇胎動陣の前には、貴様の聖覇粉砕牙は無力だ!」
「なんだと……! ならば! 父親の残してくれたこの最終奥義・竜虎断末撃で貴様を討つ!」
「がはははは! その技はすでに見切っておるわ!」
「嘘だ!」
「嘘ではない! 貴様がその技を使ったが最後、このワシの竜虎回転砲が貴様もろともこの地球を滅ぼすぞ!」
「くそ……! ならば俺の命を燃やす最後の秘奥義・昇竜時空斬で!」
「貴様あの技を使いよるか! ならばワシも本気を出そう、受けて立ってやる、このワシの暗黒轟雷波でな!
 我らの技がぶつかれば、この地球もただではすまんぞ!」
「何だって! ならば……えーと、お、オーラバスターパンチで貴様を殴る!」
「ふん! そんな技、ワシの……えーと、ファイナルディバイダーでかき消してくれるわ!」
「ならば俺はさらに、アー……」
「アー?」
「アー……タック8500で!」
「は?」
「アタック8500で、お前を8500回アタックするぞ!?」
「ぐぅ……しかしワシは味噌煮込みシールドにそれが通じるかな!?」
「じゃあ、この抗菌ソードで!」
「そしたらワシの二つ折りドラゴンが!」
「それでも俺の片手間キッチンで!」
「なんの! ワシのえんぴつの歌が!」
「ではこの薬用チョップが!」
「しかしワシの初めてのおつかいに!」
「えーと……じゃあ…えーと」
「えーと、何でも返せるぞ、えーと」
「えーと……もうめんどくせえ! 喰らえ! 聖覇粉砕牙!」
「バーカめ! それは無力だと言ったはずだ!
 ファイナルディバイダー!」

どかーん!

「技間違えたー! ぐわあー!」


カキーン!

「打ったぁー! これは大きい!
入るか、入るか?
入るか!? 入るのか!?
入ってしまうのか!?
伸びる伸びる打球はぐんぐん勢いを増して天を衝くほどだけども入るのか!?
どうなの?
これどうなの?
天を衝くほどだけどもホームランとはまた別の話なのか!?
天を衝いた後でファールになることだってあるのか!?
そうなってしまうとこのあがりきった球場のテンションを誰がフォローしてくれるのだろうか?
もう皆ホームランのつもりで風船とか飛ばす準備始めてるし、正直相手チームもそろそろどうやって投手を励まそうかを考えている頃だと思う!
しかしどうなんだ! この打球はどうなんだ!

太陽にも届きかねない勢いのこの打球!
しかし昔ギリシャのイカロスは、太陽に近づきすぎたためにその羽を燃やされ、地上に落下してしまったという!
もしこの打球がイカロスと同じ目に合うとするならば、打球はいずれ地上に落下してしまうのだが、問題はホームランなのか!? ファールなのか!?
イカロスも落下してしまったが、ホームランだったのだろうか! それともファールだったのか!?
太陽の神・アポロンの怒りに触れたけどホームランだったから今でも語り継がれているのか!?
とにかく一刻も早くボールが落下してほしい!
でないとこの皆中腰で空を見ている状態がいつまでも続くことになるが打球は伸びる!
伸びる伸びる!
伸びていくー!

落ちてこない!

打球はまだ落ちてこない! 我々を嘲笑うかのように落ちてこない! 反抗期だ! ボールの反抗期が始まったー! 昔はあんなに素直ないい子だったのに! 今じゃバイクにタバコに買い食い立ち読み! でもそれでもいい! ワンパクでも、健やかに育ってくれれば、それでいいのです! ホーーーーーーーーーーーーーーーームラン! に! なる可能性は、ゼロではなーーーーーーーーーーーーーい!」


「ああ、アイツを見たときはマジでビビったね。耳から小便チビっちまうかと思ったほどだぜ! 時間? アイツを見た時間かい? そうだな、俺が家に帰っていつもどおりジム・ビームをやろうとしたときだったから、夜の十時ぐらいだったとは思うが、それにしてはテレビに刺さってるニンジンが緑色だったし九時かもしれねえ。ああ、すまん、ちょっと混乱してて、もうその辺覚えてねえんだ。俺がはっきり覚えてることといえばヤツはサッカーボールを蹴りながら磯野を野球に誘ってたってことぐらいだ」 /38歳 ドイツ人農家

「え? あの夜のことかい? マイったな……いや、話したくないってわけじゃないんだが、ホラ、こういうことって話しだすと、自分の中で膨らんじゃうだろ……? ただでさえあの日から一週間ろくに眠れなかったってのに……ああ、イヤ、話そう。ええと、そうだな、とりあえずあの日から冷蔵庫の扉は防弾にしようと思ったね。ナンセンスだと思うかい? 僕に言わせれば野菜室の方がよっぽどナンセンスさ! 冷蔵庫は野菜室なんか作らないで、非難室を作るべきだったんだ……あの目が真っ赤で、爪の先にきなこが詰まってるようなヤツが現れたら、どうしたってそう考えるようになるさ。え、時間って、そのときの時間かい? うーん……よく、覚えてないな、十時ぐらいだった気もするけど、イヤ、テレビに刺さってたニンジンが緑色だったな……」 /29歳 実業家

「非科学的だ。そんな話は信じられない。夜の十時にニンジンが緑色に? しかもテレビに刺さっているのに? 君は豆の木にのぼったジャックのように、大切な論理的思考を幻想と取り替えてしまったんじゃないか? はっ! 馬鹿馬鹿しい」/54歳 科学者

「ああ、ワシがこんな話をするハメになろうとはな……そうじゃな、ワシが兵士としてベトナムに居た頃、ワシは過酷な戦場を泥水をすすり草根をかじって生き延びたものだ。あんたら若い者には想像もつかんだろうが、好き嫌いなんぞ言っていたら死を招く世界じゃったんじゃよ、だから生きるためには何でもした。ドラえもんを見ながら矢沢を聴いたり、プリンを作りながら矢沢を聴いたり、B'zと対談しながら矢沢を聴いたり、な……少なくとも、リンスなんて二日に一回できれば上等な世界じゃったよ。そうするうちどんどん食べるものもなくなり、ワシらは手持ちのコエンザイムのサプリメントのみで飢えをしのいでいた。腹は膨れなかったが、どんどんお肌はぷりぷりにはなっていったよ。え? ああ、この話じゃなくて、昨日の夜の?

ああ、昨日の夜の話か……ありゃあ酷かった、どこから話すか、そうじゃな、ワシが修学旅行でベトナムの戦場に居た頃……」 /89歳 初老の紳士


『おとしよりに席をゆずりましょう!
なんで、おとしよりに席をゆずった方がいいのか、みなさんで考えてみましょう!』

・おとしよりに席をゆずることで、おおきな評価をえられるから。(さとう だいき)

うん、たしかにそうだね。おとしよりに席をゆずれる「やさしさ」これはとても評価されるべきことだよね。でも考えてみよう。そんなろこつにギブアンドテイクスピリッツを出しちゃったら、席をゆずられたおとしよりはどんな気持ちがするだろう? 今までさんざ社会にりようされてきたおとしよりだ、そのへんはびんかんだよ?

・おとしよりのほうがいい席にすわってて、交換したいから。(たいなか りつこ)

うーん。これもおしいけど、○はあげられないなあ。このかんがえかただと、結局、自分のすわりたい席にすわってる人なら、おとしよりだろうがどくさいしゃだろうが席をゆずるということになるからね。せんせいは、どくさいしゃに席をゆずるたなかくんは、きらいだな?

・おとしよりは、ずっとたっているとつらいので。(いのうえ けん)

あ、ごめん。せいろんすぎて、せんせい、ちょっとヒいちゃったな。

・どうせ、ぼくはのらないので。(うつのみや しょうこ)

でんしゃのそとから、なにをえらそうにしじしているのかな?

・ゆずることで、かんせいするので。(ごとう まみ)

どういうことかな? まさか席がすべておとしよりで埋まったら、はつどうするこだいへいきかなにかを、かんせいさせたのかな? せんせいも、うわさでしか聞いたことがないけれど、まさかげんじつのものになっているとはね。君がどこでその兵器のじょうほうを手に入れたかは聞かないよ。いずれわかるだろうし、その時君は後悔するかもしれないけれど、子供が足を突っ込んでいいことと悪いことがあるってこと、勉強するいい機会だしね。ただこれだけは言っておく、あの兵器はお年寄りを集めればいいというものではない。一つの車両に隈なくお年寄りを敷き詰めることで、オトシヨリウムを充満させ、そこに古代の鍵を差し込みエーテル反応を起させる、これが何を意味するか。そう、新世界の創造だよ。そしてそれは神の所業だ。小学校二年生には、少し荷が重いだろう。

・おばあちゃんが、席をゆずられて、うれしかったと言っていたので。(はせがわ みちこ)

えらい! そういう人のきもちがわかる「やさしさ」は、だいじだよ!


「いやーあのね。最近こう、街なんかを歩いてて思うのがね。
 街はどんどんオシャレになっていくなと」
「いいことじゃないですか、オシャレになるのは」
「いいことですかね。僕、あの、オシャレって凄い駄目なんですよ」
「何でですか」
「いや何か腹立つでしょ」
「腹立てるのはおかしいでしょ」
「いや何かもうイライラするんですよ、なーんかスターバックスとか、ねえ? スタバとかいって」
「それはいいじゃないですか」
「よくないですよ! どうせ「スタバ」って響きがかっこいいからでしょ!?」
「言いにくいから略してるだけだよ
 スターバックス長いからスタバ、って。」
「そしたらオートバックスもオトバって言えよって話ですよ」
「いやいやいや」
「ダックスフンドもダッフンドって言えよ」
「どんな略し方だよ、ダッフンド」
「充分なんですよそれで」
「嫌だろ『この犬の種類何?』って聞いて「ダッフンド!」とか言われたら」
「いいじゃない別に」
「嫌だよ、犬の後ろでチラチラ志村けんが見え隠れするし」
「そんなこと無い、考えすぎだろ」
「ミニチュアダックスフンドだったらミニチュアダッフンドになるんだぞ?」
「いいじゃないですかミニチュアダッフンド」
「よくねえよ」
「ちっちゃい志村もかわいいですよ?」
「やっぱ志村じゃねえか!」
「志村のどこが駄目なんですか!」
「駄目に決まってんだろ、せっかくの可愛い犬が志村だぞ!? ドリフだぞ!?」
「あ! それそれ! オシャレ好きのそういうとこも嫌い!」
「そういうとこ?」
「そう、何か、全部オシャレじゃないと気がすまない、みたいな」
「それはお前考えすぎだって」
「スターバックスみたいな店は店の中も外もそういう空気出てるもん」
「そうかなあ」
「内装がもう腹立つ。椅子とかもなーんか針金をぐにぐにまげて作ったみたいなほそっこいやつ!」
「いや、オシャレじゃないですか」
「そういうのが駄目なんだって、何でもかんでも「オシャレでしょう? オシャレでしょう?」みたいなのが!
 椅子なんてあんなもん座れたら何でもいいんだよ。
 切り株でいいんだよ」
「駄目駄目! 客が全員木こりになっちまう」
「コップとかも、プリングルズの空き箱でいいんだよ!」
「嫌だよ! 何頼んでもあの丸い髭ヅラが笑ってんだろ? 嫌だよ!」
「じゃあお前の好きなバーベキュー味にしとくよ」
「何味でもお断りだ!」
「何でよ、コーヒーとバーベキュー味が一緒に楽しめる」
「洗えー! 洗ってから出せー!
 粉が残ってんじゃねーかバーベキューの粉が! 明らかに不味くなるだろ!」
「じゃあ最初からバーベキューラテを頼めよ」
「ねーよ! なんだバーベキューラテって!」
「バーベキューをまずラッテラテにして」
「何だラッテラテって!
 つーかそれだとバーベキューラテしか飲めねーじゃねーか
 普通のコーヒー飲みたいときはどうすんだよ」
「コーヒー味のプリングルズを持ってくるしか」
「だから洗えー! 何で味つきコップしかねーんだよ!
 そんな店、誰もいかねえよ!」
「勘違いすんなよ」
「何が」
「俺もいかねえよ?」
「お前はいけよ」


「バッター、井崎くんに変わりまして、竹田くん」


(竹田……? 聞いたこと無いやつだな。こんな場面で出すなんて、よほどの隠し玉なのかな)
「とうとう俺の出番が来たようだな……よう、久しぶりだな。飛鳥 一球!」
(俺、長谷川だけど)
「あの日以来、俺はお前の球を打つためだけにバットを振ってきた……!」
(マジ誰だろうこの人)
「この左目の傷! 忘れたとは言わせねえぜ!」
(忘れたって言いてえー)
「さあ、投げな! 俺に打たれる勇気があるならな!」
(よく喋る人だな、まあいいや)

ずばん!
ットライーック!

「見えなかった、だと。この俺が! 貴様、あの球を完成させたというのか!」
(フォークだけど)
「噂には聞いていたが、これがお前の『ステルス・タイガー』か!」
(勝手に名前つけられた)
「しかし残念だったな! 貴様のその球、俺はすでに見切ったぜ!」
(見えなかった、って言ってたよな)
「さあもう一度投げてみろ! 貴様の『ステルス・タイガー』を!」
(これからフォーク投げるたびに言われんのかな、やだな。
 普通に三振とっても『出たー! ステルス・タイガーだ!』とか、すげー恥ずかしいな)
「いくら見えない球とは言え、実体がなくなっているわけではない。そう、例えばハエの羽は飛んでいるとき、怖ろしい速度で動いているため肉眼では見えなくなっているという。この球もそのハエの羽と同じ原理によって、高速でブレて落ちる変則ナックルだとしたら……」
(なんかすげー喋ってる。気持ち悪いからフォーク以外投げよ)

ずばん!
ットライーク・ツー!

「何! これは!」
(あ、なんか怒らした)
「審判、あんたには、いや、ここの球場にいる全員が見えちゃいないだろうが、俺の目は誤魔化せねえ……! 貴様、『白龍衝』まで会得していたのか!」
(カーブだけど)
「最初の『ステルス・タイガー』は撒き餌だったってわけだ……フフフ……クックッ、ファーハッハッハッハ! 楽しませてくれるぜ、飛鳥一球!」
(長谷川です)
「ならば俺も本気を出そう! 六時間山にこもって編み出した必殺技!」
(飽き性なのね)
「『竜虎心眼打』」
(うわ、あいつ)
「何! アイツ、目隠ししてしまったぞ! あれでは見えるはずがない!」
(自分で言ってるよ)
「フン! しかし、心の目はバッチリ開いているぜ! さあ飛鳥! 俺を楽しませてくれ! そして俺がお前の球を打ち

ずばん!
ットライーック! バッターアウッ!

「……なん、だと……」
(悪いことしたかな)
「ククク! おもしれえ! 負けたってのに、ワクワクしているぜ! おい! 飛鳥!」
(はい)
「今日は負けたがな、今度はそう上手くはいかねえぜ? 覚えておくんだな! 貴様をもっとも手こずらせた男の名を!」
(凡退ですが)
「そう、この俺、不知火 瞬の名をな!」
(竹田くん)
「あばよ! 飛鳥一球!」
(じゃあね、竹田くん)


「なんだ……この部屋は。壁も真っ白、ドアも、窓も無い! 何、だ、頭が、割れるように痛い、なんで俺はこんなところにいるんだ! おい! 誰かいないのか! 出してくれ! 何なんだこの部屋は! 出してくれ! 出せ、出して、出してくれ! 誰か! ここから出してくれ!」

「さっき出たじゃありませんかおじいさん」


タイタンくん

タイタンくんは野球好き、中でも阪神の大ファン。たびたび夜中、精霊合宿を抜け出して球場に行っていた。しかしその巨体のせいで阪神ファンから大不評。それでもタイタンくんは足の中指一本で立ち見するなどしてなんとか不評を買わないようにしていたけれども、ある日飛ばした鼻くそで金本のホームランを弾いてしまってさあ大変! 激怒した阪神ファンから「てめえそもそも巨人のくせに阪神ファンとは良い度胸だ!」などと罵詈雑言を浴びせられ、心を縦じまに引き裂かれてしまった。

心から涙が溢れてくる。でも、まだ試合中、泣いては駄目だ。大好きな阪神の試合だ笑って観ないと駄目だ。うずくまり、涙が体から出ないように目を手で覆い、ケツにカナダ杉を刺して耐えるタイタンくん。そのうち、杉が根を張りタイタンくんはそのまま大きな一つの「山」となってしまった。

山頂に大きな杉を頂くその山を人々は「六甲山」と呼ぶようになって数十年後、大人たちが六甲山を開発してゴルフ場やスキー場を作り始めた。山は削られ木は切り倒され、とうとう山頂の杉さえも切り倒されたその瞬間! タイタンくんの我慢していた涙が根元から大噴出。天を衝くほど勢い良く吹き上がった涙は上空で冷やされ、雪となって山へ、町へ降り注ぐ。季節外れの雪、奇跡のようなその景色を見て、タイタンくんの悲しみが街を白く彩ったその日を「ホワイトデー」と呼ぶようになったとさ。


引き出しの中からの来訪者。

「やべーレポート終わらねー提出明日だってのにーもーおー!」
「おっす」
「わ、誰、何、誰、おま、何、誰?」
「whatとwhoを交互にぶつけるんじゃないよ、統一しようぜ」
「誰だよ何なの」
「聞けよ人の話。いいか、俺は未来から来たお前だ」
「帰れよ」
「早ええよ、もっと驚けよ『未来から来た』って部分に」
「レポートやんなくちゃいけねんだよ、帰れよ」
「めんどくさい女追い返すのと同じトーンで未来人追い返すなよ、まあ聞けって」
「わかった聞こう」
「いいか、近い未来、お前に重大な選択肢がつきつけられる」
「なるほど。帰れ」
「待てよー!」
「用件済んだろ帰れよ」
「お前、俺は未来のお前だぞ!?」
「確かにお前俺そっくりだけど、何で服装とか全部今の俺と一緒なんだよ!」
「そりゃニ時間後から来たしな」
「近えよ。近未来通り越して近所未来じゃねえか。ニ年後から来いよ未来人なら!」
「仕方ないだろ、重大な選択肢がお前に迫ってんだから」
「どうせアポロを上から食うか下から食うかとかその程度だろ」
「それもあるけど」
「あんのかよ」
「わかった、信じてないんだな? よし、それなら」
「いや信じてる全力で信じてる。寸分違わぬ俺だから」
「証拠を見せてやろう! これ、俺の時計見ろ、ニ時間進んでるだろ」
「帰れよ」
「ちょっとぉ!」
「信じた上で言うよ帰れよ」
「わかった、じゃあこれ、食いかけのアポロ」
「下から食ってんじゃねーよ、イチゴチョコの部分だけ残してどうすんだ」
「一度で二度美味しいだろうってば」
「チョコの部分のが多いんだから、イチゴから食えよ!」
「それは俺も思ったよ! 今すげー後悔してるんだって!」
「お前やっぱニ時間後の俺じゃないだろ。俺ならアポロ下から食わないもん」
「いやそれは俺がお前にアポロ見せたからだろ。見せなかったらお前下から食ってたし」
「でもいいのかよ、俺がアポロ下から食わないってことは、未来変わるだろ。人類やばくなったりしねえの?」
「お前のアポロの食い方でヤバくなるほど人類は暇じゃねえよ」
「ていうか何なんだよ。帰れよ。死ねよ」
「要求がグレードアップしてるぞ」
「お前全然成長してねーじゃねーか、今の俺から」
「そりゃニ時間後だしな。ニ時間で人は変わらん」
「……あ、そうだ、ニ時間後ってことなら、一つ頼みがある」
「何だ」
「レポート、出来てるだろ? ニ時間後なら完成したレポート見せてよ」
「いや、出来てない」
「クズだなもうほんっとクズだな」
「アポロの下だけ食うのって意外と時間かかるんだって」
「何にニ時間かけたんだよ! レポートやれよ!」
「そのレポートに関係して重大な出来事が起こるんだって! 俺はそれをお前に!」
「伝えに来る暇があったらレポートやれよ! 時を飛び越えてアポロの食い方伝えにきただけじゃねえか!」
「お前が余計なこと言うからだろ!」
「って、もう二時間も経ってんじゃねーか! 帰れ!」
「ちょ、ちょっと! 押し込むな押し込むな! せめて話を」
「うるせえ! レポートやるんだ俺は!」
「話を、聞けよ!」
「おい! 袖引っ張るな! 袖引っ張るなって、俺も、落ち、うわああ!」

………

「やべーレポート終わらねー提出明日だってのにーもーおー!」
「おっす」
「わ、誰、何、誰、おま、何、誰?」
「whatとwhoを交互にぶつけるんじゃないよ、統一しようぜ」
「誰だよ何なの」
「聞けよ人の話。いいか、俺たちは未来から来たお前だ」
「たち?」


「イエー! テメェらノってるかベイベー!」
イエー
「オーケークソ野郎ども、合言葉を言ってみろ! ファック・ザ!?」
ポリスー
「ファッキン! ファッキンな回答だ! そんなくそったれなお前らに俺からのプレゼント、一曲目は大ヒットファッキンシングル『ミッドナイト冷めた味噌汁』だぜ!」
イエー
「さらに二曲目は『インビンシブル佃煮』そしてさらに畳み掛けるようにクソファッキンシットシングル『学科教習・イン・ザ・ヘル』! 『フリーダム・ホームラン』『特大小倉マーガリン』! そしてMCを挟んで最後はしっとりと『マッドネス・スタッドレス』『浣腸ピース』『益子・ダ・直美』『ドラゴン・ボール』そしてアンコールはあのキリストもブッ飛ぶ名曲『Gray・メドレー』!! どうだ、このラインナップを聞いただけで失禁してんじゃねえぞゲロパンティども! イエー!」
イエー
「オーケーオーケー、ただでもお前ら、これだけは聞いて欲しい。照れくさいけど、俺、お前らに会えてよかった」
泣かないでー
「泣いてねえよファッキン! でも感謝の言葉は伝えたい……お前ら、どうもファッキンがとう……」
イエー
「オーケー! じゃあ俺たち『インストゥルメンタル・ジャーニー』初来日公演! 行ってくるぜ!」
気をつけてー


『テニスの放射能』part5

(どうすればいいの……どうしてもサーブで誰かを殺めてしまう……!)
「それはあなたの心に邪心があるからよ!」
「部長! どうして私の心を!」
「読心術部の友人に教えてもらったのよ、あなたのテニスには邪な心があるわ!」
「な、どういうことですか!」
「あなたはテニスを復讐の道具として使うことしか考えてない。そう、殺されたお母さんの復讐にね」
「母はまだ生きています!」
「さっき私が殺したわ!」
「え、部長! いくら部長でもそれはプンスカ!」
「それよ! その復讐心がある限り、あなたのテニスは人を殺め続ける!」
「どきっ!
でも、でもどうしたらいいんですか!」
「邪心を消すのよ……校舎裏にあるコスモ山、その山頂に邪心を消す軟膏があると聞くわ。それを持ってくるのよ!」
「え! でもあそこは自殺の名所で、死んだ人たちの亡霊部の人たちがボランティアで山を荒らす人たちを殺しまわってるって噂が……!」
「だからこそ、よ。そこであなたの実力を見せてもらうわ。
襲い掛かる亡霊たちを、テニスで振り払うのよ!」
「……わかりました! この私のテニスで、亡霊をぶっ殺しまくります!」
「その意気よ!」

(半年後)

「はぁ……はぁ……やっとついた!」
「ブイ美さん!」
「ブイ美!」
「みんな! 久しぶり!」
「邪心は消えたの!?」
「うん! 軟膏塗ったらスーッとしちゃった!
あ、練習試合は!?」
「もう四ヶ月以上前に終わったよ!」
「え! なんてこと……あ、部長、部長は!?」
「卒業したわ」
「ええー!?」

第二部 完


『テニスの放射能』part4

「さ、目前に迫った私立二層式高校テニス部略して「にそテニ」にさらわれた数学の溝口先生を助けるために練習をするわよブイ美さん!」
「はいっ!」
「さっきも言ったけれど、奴らは反則スレスレのプレイをしてくるわ」
「はい! それを上回る反則ことチェーンソーで奴らをギッタギタのバラバラにしてやるんですね!」
「それだけじゃ駄目! もう一つ大きな問題があるの」
「え?」
「あなたは反則と同時に、テニスもしなくてはならないわ!」
「えええ!」
「なぜなら向こうはテニス部……」
「そんな……チェーンソーに鎖をつけたこの「アーバン鎖鎌」を振り回していれば勝手にバラバラになるものだとばかり……」
「一筋縄ではいかないということね、しかし安心なさい」
「え?」
「あなたも、テニス部なのよ!」
「!!」
「テニス部である以上、テニスはできてしかるべし! だからあなたにこの一ヶ月間、みっちりとテニスを叩き込んであげる!」
「はい! お願いします!」
「まずはサーブよ、これが打てないテニスプレイヤーは大体就職してテニスと関係ない職についてるわ!」
「ごくり……!」
「打って御覧なさい」
「はい! それっ!」

びゅっ!
グシャッ!

「入った!」
「いいサーブだわ、速度、威力、タイミング、何をとっても一流と言える、でも!
自分のサーブがバウンドした場所をよく見て御覧なさい!」
「え!? あ! タンポポの花が一輪つぶれて……!」
「命を無駄にするサーブでは、ボールはインでも人としてアウトよ!」
「くっ! もう一球お願いします! それっ!」

びゅっ!
ニャー!

「あ、猫が!」

びゅっ!
パオーン!

「象牙が!」

びゅっ!
ギャー!

「要人が!」
「どうしたのブイ美さん、それでは私に勝てないわよ!」
「くっ!」(どうすればいいの……!?)


『テニスの放射能』part3

「じゃあブイ美さん、早速練習を」
「でも待ってください部長、軽はずみにシングルスワンに出るって言ってしまったけど、その『にそテニ(二層式高校テニス部)』は、どんなテニスをするんですか?」
「そうね、ラフなプレイヤーが多いわ」
「というと?」
「反則スレスレの行為を平気でする連中なの。ラインをはみ出すギリギリでサーブを打つし、ギリギリ規定内のラケットをためらいもなく使用する。さらには反則スレスレのシューズをはいてきたり、一歩間違えば退場の言葉を吐きながらかろうじてルールにひっかからない打ち方をするわ」
「それって……!」
「そう、やることなすこと全て反則スレスレなの」
「いいんですかそんなの!?」
「ええ、だって反則スレスレなだけで、反則ではないもの。めちゃくちゃフェアプレーよ」
「そんなこと、許せない!」
「そういうところ、何時郎選手にそっくりね……でも大丈夫、対抗策がないわけではないわ」
「え!?」
「相手が反則スレスレの行為をしてくるなら、こっちはもうド反則で対抗するのよ!」
「毒にはより強い毒を……ですか?」
「そうよ、本番用の仕込みラケットと麻酔銃はこちらで用意しておいたわ」
「部長……! ありがとうございます! こんな私のために……!」
「ふふ、さっきも言ったでしょ、私はあなたの今後に興味があるだけ。
さ、このシューズとユニフォームは、あなたのものよ!」
「凄い、このシューズつま先からチェーンソーが出る! ユニフォームも裏に数学の公式がびっしり! いつテストが来ても大丈夫ですね!」
「そしてこの笛を……」
「これ何ですか?」
「吹くとゴリラが来て、相手をくしゃくしゃにするわ」
「すごい!」
「でも吹くところを見られると反則を取られるから、ユニフォームの脇に仕込んでおいて、脇の匂いをかぐ振りをしながら吹きなさい」
「はい! これだけ反則できれば、相手の反則スレスレの行為なんて目じゃないですね!」
「油断は禁物よ、なんたって相手は反則スレスレのことをしてくるんですからね」
「はい、部長、ありがとうございます!」
「お礼は勝ってから、ね?」
「はい! にっくき『にそテニ』を、このチェーンソーでバラバラにしてやります!」
「その意気よ! さ、次こそ練習シーンに行くわ!」
「はい!」


『テニスの放射能』part2

「でも、部長、やっぱりどうして私なんですか? シングルスワンは、やはり実力で部No.1の部長がやるべきだと……」
「ブイ美さん、私は見てみたいのよ」
「ターミネーターの続編をですか?」
「違うわ。あなたの本当の力を」
「本当の力だなんて、私にはそんなもの」
「いいえ、あるわ、申し訳ないけど、私あなたのこと少し調べさせてもらったの」
「え!?」
「過去に全米であらゆるタイトルをかっさらっていった幻の日本人テニスプレイヤー……」
「……」
「その野性味あふれるプレイスタイルと、ラケットを二本同時に使う技術……そんな彼の姿から、当時のテニスプレイヤー達は彼のことをこう呼んだわ

『おサムライ何時郎』

知ってるわよね?」
「……はい」
「そして私は調べているうちにあるとんでもないことに気づいたの、彼の、何時郎選手とあなたの驚くべき共通点」
「…………」
「彼とあなた、血液型が同じなのよ!」
「!!!」
「それだけじゃないわ、利き腕も国籍も箸を使ってご飯を食べる癖も、何もかも!
……あなたを最初見たときから、何時郎選手が重なって見えたのも納得できたわ」
「私は……

私は、比べられたくなかったんです! 血液型とか利き腕が一緒ってだけで、みんな私と何時郎選手を比べてしまう、辛かったんです……! それが、とても!」
「でもブイ美さん、私は知りたいのよ」
「美味しいオムライスの作り方をですか?」
「違うわ。何時郎選手と多くの共通点を持ちながら、何時郎選手を否定するあなたが、どういう力を発揮できるのかをよ」
「そんな……」
「やってくれるわね、ブイ美さん!」
「どこまでやれるかわからないけど、私、頑張ります!」


『テニスの放射能』part1


「ええええー!!!」
「わ、私があの数学の溝口先生を拉致ったにっくき私立二層式高校テニス部略して「にそテニ」との試合で、シングルスワンを!?」
「ええ、そうよ」
「だっ、無理です! 私なんてまだそんな初潮も来てないのに」
「あら、そこまで無理だと、私は思わないわ」
「そうよ、ブイ美ならできるわ!」
「おだまり!」
「ひっ! 部長!」
「私は天才テニスプレイヤーだし、選手を見る目も確かだからこの子の才能が凄いってことは丸わかり、そう、不自然に手首を内側に丸めて店を出ようとする子供が万引きしたボールペンを袖の中に隠してるってことぐらい丸分かりなのよ! あなたみたいなテニスの才能というか呼吸の才能も人並みで生まれもさほどよくないからかさぶたほどの教養も持ち合わせてなく葬式にジーパンで着ちゃって「え、でもブラックジーンズですよ?」とか答えてしまう凡JEANが軽々しく私の意見に賛同しないでちゃぶだい!」
「部長! いくらなんでも、それは」
「あら、失礼」
「古すぎます! ちょうだいとちゃぶだいを掛けたダジャレ……いくらなんでも、古すぎます!」
「!!」
(なんてこと! この子ったら、目の前で友達がメガなじられてるっていうのに、私がこっそり隠した、そう、肥溜めに落とした鼻くそのようなダジャレに気づくなんて……!)
「いいの! ブイ美いいの! 悪いのは私だから……」
「人間(ひと)み……! でも、さっきのはいくらなんでもダジャレとして古すぎて」
(超人的な反射神経!!)
「う、うふふふ」
「ぶ、部長!?」
「あは、あーはっはっはっはっは!」
「部長! どうしたんですか!? どこか具合でも、前頭葉? 前頭葉かしら!」
「いいえ、ますます楽しみになってきただけ……。ブイ美さん、胸を張りなさい。あなたは、本当にダイヤの原石よ!」
「いえ、そんな……」
「話は聞かせてもらったぞ!」
「あなたは! 国語の大口先生!」
「こんな俺でも何かできるかわからんが、力にならせてもらう!」
「ちょっとまった!」
「あ! 理科の橋本先生まで!」
「へへっ、大口くん、もし敵が石灰石と塩酸を反応させてきたら、誰が水上置換法を行うんだい…?」
「先生……!」
「おっと、忘れてもらっちゃ困る!」
「ああー! 社会の谷木先生!」
「赤潮の出来る原因、知ってるぜ……?」
「さあ部長さん、我々も老いたとはいえ教師のはしくれ、そのシングルスワンに一臂の力添えをしたい!」
「先生がた……!」
「ま……テニスも教育も紙一重ってね」
「わかりました、では、今回のシングルスワンは

ブイ美さんにやってもらいます全部! いいわね!? ブイ美さん!」
「はいっ!」


「テニスの放射能」

(ふー、何とか授業には間に合った……)
「今日の一限目なんだっけ?」
「確か数学よ」
「マジで! 宿題やってないよぅ!」
「もうブイ美ったら底なしのマヌケね! 大丈夫、また返り討ちにしてやるんだから!」
「もう人間(ひと)みったらレッカー馬鹿一代ね!」
「あ、先生来たわよ!」

「えー……皆さんいますね」
「(あれ? 何かおかしい……)」
「それじゃ、えー、それじゃね、授業を」
「(間違いない! この人!)」
「ちょ、ちょっとまって」
「おや、君は……チェル野さん、どうかしましたか?」
「先生、いや、あなた、あなた誰ですか?」
「ちょっとブイ美! 何素っ頓'n狂なこと言ってんのよ! どうみたって数学の溝口じゃん!」
「いいえ、違うわ、あの目の青アザを見て」
「見てって、いつもの青アザじゃない」
「あの青アザはドMの先生がいつも家を出るとき奥さんにエルボー喰らってるからよ、そして先生の奥さんは右利き……」
「ってことは!」
「そう! アザは左目にできていないといけない! でも先生のアザ、今日は右にあるの!」
「本当だわ! え、てことは?」
「まったく理解力のないオーディエンスね! 先生、いや、謎の怪人! 正体を現しなさい!」
「ほほほほほ! さすがブイ美! 私が見込んだだけのことはあるわね」
「その声は!」
びりびりびりびり!
「部長!!」
「お久しぶりね、ブイ美さん」
「え、部長が、なんで、え、じゃあ、先生はどこに!?」
「溝口先生にはあそこでちょっと眠ってもらってるわ」
「あそこ? あ、すごい! 流れる滝が作る大量の水しぶきが太陽の光を浴びて、無数の虹を作り出している!」
「そう、水と光の織り成すオーケストラってところね」
「素敵……はっ! いや、部長、そうじゃなくて先生は!?」
「あそこよ」
「あれは! 雪の重みで垂れ下がった樹の枝たちが、そのままの形で樹氷となって自然のアーチを作り出している!」
「温暖化などしなければ、私たちはあのアーチで歓迎されているはずなのよ」
「何て神秘的な……、はぅ! じゃなくて先生は!」
「あそこを見て」
「なんてこと! 厳冬期に岩肌から滴る一滴一滴が、地面に落ちた瞬間に凍りつき、まるで氷柱が下から伸びているみたい!」
「氷筍、と呼ばれるものよ。自然は我々の理解を超えているわね」
「夢みたいな光景……じゃなくて、先生は!?」
「拉致されたわ」
「ええええ!?」
「そう、拉致したのは憎き銀河私立二層式高校テニス部!」
「にそテニが!?」
「そう、そして我々は先生を取戻すために、練習試合を申し込んだわ!」
「練習試合!」
「そしてその試合のシングルス1、あなたにやってもらおうと思って」
「ええええーー!!」

つづく。


「テニスの放射能」

ホロコースト! あたし、チェル野ブイ美! 今年の春から東京都立帝政ペプシヶ丘高等学校に通うことになった、ピッチピッチの十七、八歳よ! こないだは憧れのペプ高テニス部の体験入学をさせてもらったんだけど、ひょんなことから先輩と試合することになっちゃってひょんなことから勝っちゃった! 人生ひょんよね!

「あーあーどっかのDVDに素敵な殿方でも焼かれてないかなー」
「おっはよ! ブイ美!」
「あ、人間(ひと)み、おはよー」
「どうしたの? 朝からため息なんかついてると、あのメテオ曇り空割ってぶつかっちゃうぞ?」
「ううん、何でもないの、ただなんか憧れのテニス部に入れたのに」
「あ! ブイ美、ほら、もうこんな時間! 学校遅れちゃう!」
「どうせまた東部標準時に時計合わせてるんでしょ、急がなくたって」
「違うわよ! こないだちゃんとJSTに合わせて来たんだから! ほら、急いで急いで!」
「あ、ちょっと、待ってよ人間みー! もう追い抜いてるけど!」
「あ、こら、先に行くなんて酷いぞブイ美! 今追い抜いたけど!」

「貴様ら入学早々遅刻とはいい度胸だな!」
「「す、すいませぇーん!」」
「しかも校則違反まで犯しおって」
「で、でも、ブイ美はちゃんと自転車通学の許可を!」
「そいつの許可は下りてるが、お前のレッカー車は許可降りてないぞ!」
「す、すいませぇぇん!」
「しかもチャリに牽引されてるって、どういうことだ! 普通逆だろ! その他にもミニ四駆を違法改造したり……」
「(ね、ブイ美、逃げちゃおうよ)」
「(え? ヤバいよ。体育のアゴ田坊はしつこいって有名だよ)」
「(大丈夫★ あたしにいい考えがあるの!)」
「肉抜きしたシャーシを裏から針金で補強するなど規定外のパーツを、聞いてるのか!」
「すいません先生! あたしこれで!」
「まて! まだプロローグだ、ぐわあああああ!」
「早く逃げてブイ美!」
「貴様、教師を牽引してただで済むと、ぐわああああ!」
「ごめんね人間み! 恩の重ね着するわ!」
「シャツ恩ジャケットね! 今年の春は来るわよ!」
「ぐわあああああ!」


「みーつけた!」

隆志くんが僕の肩を叩く、僕は見つかってしまったのだ。隆志くんはかくれんぼが強い。強いなんてもんじゃない、超強い。超強いっていうか、超ヤバい。だから僕はいつも隆志くんとかくれんぼするのが超キツいけれど、隆志くんはかくれんぼしようっていうから、僕は仕方なくする。僕もかくれんぼは好きだから。

「みつかっちゃったかー」

悔しそうに首を傾けてみる。でも僕は悔しくはない。なぜなら隆志くんはかくれんぼが超強い。超強いっていうかマジ畏怖い。隆志くんは卒業文集で「大きくなったら世界で一番のステルス機になりたい」と書いていた。隆志くんなら出来ると思う。僕はそう思う。

「じゃあ次、よしおが鬼な!」

僕が鬼になった。僕は自慢じゃないけれど、普段はかなり鬼だ。借りたスーパーボールを舗装されてない道路に叩きつけるし同じ女を二度抱いたりもしないしクラウチングスタートでウォータースライダーに乗る。こないだなんかパソコンでワードとエクセルと花子をフル稼働させながらDVDを焼いた。しかも最大速度で。僕は相当の鬼だ。あらゆるものの鬼だ。雨とか全部避ける。けどかくれんぼだけはやっぱりかなわない。

「じゃあ数えるよー」

隆志くんはホントすごい。ホントすごいっていうか、超強い。超強いっていうか、革命っぽい。レボってる。

「いーち」

隆志くんにはかなわない。かくれんぼに関して、隆志くんより強い人がいたらそれはもうほとんど仏だ。いや隆志くんもちょっと仏の領域に足を踏み込んでいる。蓮の花をこじ開けようとしているのが見える。かくれんぼの仏がいたら、たぶんいずれ隆志くんに取って代わられるだろう。それこそ革命、レボであり、隆志くんはやってのけてそして新たな仏になるつまり仏々交換が行われて

「にーい」

けどもし隆志くんから、かくれんぼを取ってしまったら、どうなるだろう?

「さーん」

考えたくないけど、もしそんなことが起ったら。世界は色んなものを諦めちゃうんだろう。地球は回るのをやめて、人は呼吸するのをやめて、宇宙は広がるのをやめてしまうのだ。だって隆志くんがかくれんぼ下手になるんだから。かくれんぼのために生まれてきた隆志くんが、かくれんぼ下手だったら。じゃあもう存在なんてものの存在が、存在しないことになってしまうんだ。そういえばクレヨンを隆志くんに貸したままだ。後で返してもらおう。返してクレヨン、って言え、とか言われたら、もしそんな事態になったら、法的措置も辞さない覚悟で……

「よしお! 何やってるの!」
「え、マ、ママ! か、かくれんぼだよ!」
「誰と?」
「隆志くん」
「隆志くん? 馬鹿言わないで、隆志くんは、あなた」
「え?」
「帰るわよ、早く。隆志くんもそう思ってるわ」
「嘘だい! 隆志くんが帰って欲しいとか思ってるわけ」
「いいから早く帰るわよ! ほら、よしお!」
「イヤだいイヤだい! 隆志くんを見つけるまでは!」
「踏んでる」
「え?」
「あんた踏んでるのよずっと! 隆志くんを!」
「え、あ! 隆志くん!」
「よお!」


「……ですから心臓に負担がかかってまして、このままだとまた同じように急に倒れてしまうことはあるかもしれないんです」
「え、そんな、先生それは困ります。どうすれば……」
「そうですね。ペースメーカー、入れますか」
「え」
「ペースメーカー、心臓に」
「いや、それはちょっと、いろいろ不安もありますし」
「いや大丈夫ですよ、最近では技術も発達してますし」
「でも……」
「言うより実際見てもらった方が早いかな」
「見る?」
「ええ、これカタログなんですけど」
「カタログ?」
「夏に新しい機種が出まして」
「機種!?」
「ええ、コレなんかどうですか? ビデオカメラ付きペースメーカー」
「カメラなんかついてるんですか? どうやって録画するんです?」
「見るだけでいいですよ、脳と連動してますから、見るだけで録画されます」
「え、でもどうやって録画したのを見るんですか?」
「ま、それは取り出さないと」
「取り出したら死ぬじゃないですか!」
「だからまあ、お孫さんなんかが『おじいちゃん女のケツばっか見てたんだー!』みたいなことをね」
「死んでる死んでる! 俺死んでますよ先生!」
「じゃあ、これどうですか、カメラ付きペースメーカー」
「いや、だから」
「瞬きする度にシャッターが押されますから、便利ですよ」
「どうせ取り出すとき死ぬんでしょ?」
「まあですから、お孫さんなんかが『おじいちゃんのフィルム女のケツばっかりー!』みたいな」
「俺どんだけケツばっか見てるんですか。普通のペースメーカーないんですか?」
「普通って、そしたらメールと携帯しか出来ないですよ」
「メールとかできるんですか!?」
「ええ、着メロも選べますよ」
「着メロって、どっから鳴るんですか」
「口からですね」
「口から?」
「はい、メールが来ると自動的に歌いだしますから」
「俺が!?」
「そうですね」
「嫌ですよ恥ずかしい! 何で街中で急に歌わないといけないんですか」
「着メロは嫌ですか?」
「嫌ですよそんなもん、だから普通のやつに」
「マナーモードにもできますよ」
「あ、音鳴らないようにできるんですか?」
「ええ」
「あ、なら別に」
「死ぬけど」
「そこは動けよ! 何で鼓動までマナーモードにしちゃうんだよ!」
「メールが来たらちょっと動きます」
「人生をバイブ機能に委ねたくないよ」
「じゃあ我慢して着メロ歌わないと」
「だからイヤだって」
「ファナティック・クライシス歌わないと」
「何で限定されてんだ。そこは選ばせてくれせめて」
「あ、じゃあこれだ、音声入力対応のペースメーカー」
「喋るだけでメールが送れるやつですか?」
「ええ、でもちょっと電波が弱いんで送りたい人の半径20センチ以内に」
「近えーよ! 半径20cmなんてもうキスの間合いじゃねえか! キスするわむしろ!」
「ワガママだなあんたはもう、じゃあこれ、ペースボーイ!」
「ペースボーイ!?」
「そう、小さく軽くなって持ち運びが可能!」
「今までのは持ち運び出来なかったのかよ!」
「通信対戦も可能!」
「しねーよ!」
「単三電池四本必要!」
「ゲームボーイじゃねえか! しかも昔の!」
「あーもうじゃあこれ! ペースメーカーshuffle!」
「歌いたくねえっつってんだろうがー!」
「もういい加減にしてください!」
「こっちのセリフだよそれは!」
「なんでもかんでも嫌々言っていては、何も始まらないでしょ!」
「いやそうだけど、変なペースメーカーばっかりじゃんかよ」
「少し自由にならなくても、そこは我慢してくださいよ」
「いや、だから」
「さっきからそうやって冷めた目で笑いかけてる魂を侵された奴、涙を流す痛みはあるのかい?」
「え、は?」
「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、ピッ

あ、もしもし」
「着メロかよ」


寿司屋。

「へいらっしゃい!」
「あの、コハダください」
「あいよっ! お、お客さん学生さんかい?」
「あ、いや、違います」
「なるほどっ、じゃあ中学生さんかい?」
「学生でひとくくりにしてくださいよ」
「まだ若いのにうちの店に来るたぁ、大した眼力だ!」
「そうなんですか?」
「おうよ、うちの店はとことん味を追求してるからねぇ」
「へええ」
「素材にこだわり、握りにこだわり、シャリにこだわり」
「凄いですね」
「おうっ! そんじょそこらのカレー屋には負けねぇよ!」
「住み分けてください、そことは競争しないでください」
「へいお待ち、まるでコハダっ!」
「え、あの、まるで?」
「おうよ、うちの店はリアルさを追求してっからね、どうでい、まるでコハダだろ?」
「これ、コハダじゃないんですか」
「おうおうおう、よおく見てみな、形、香り、味、全部とっても、まるでコハダじゃねえか!」
「いやコハダ出してくださいよ、まるでコハダとかじゃなくて」
「お客さん、うちのリアル寿司に何か文句があるってのか?」
「リアル寿司?」
「おう、他の何よりもリアルな寿司だぜ?」
「まるでコハダだと、偽者じゃないですか、ちゃんと寿司出してくださいよ!」
「もう堪忍袋のゴム切れた! そこまで文句があるなら出てってくんな!」
「ハイカラな堪忍袋ですね。いや、すいません、ちょっと言いすぎました」
「おうよ!」
「じゃあ次は、あの、マグロください」
「あいよっ!
へい、逆にマグロ!」
「いや逆にって」
「もーう! 堪忍袋の栓抜けた!」
「早ええよ、ちょっと言われるってわかってんじゃねえか」
「そこまでコケにされちゃあ、おいらも黙っていられねえ!」
「いやだって、まるで、とか、逆に、とか言われたら……」
「おうおうおう、なら文句のねえリアルを出してやんぜ!」
「ああ、あるんですか」
「当ったり前田のブラウザーよ!」
「前田explorerですか」
「こいつを見て腰抜かしやがれっ! そらっ! 正真正銘のカツカレーお待ち!」
「寿司出せよ!」
「飯の上に具が乗ってんだ、何か文句があるってのか!」
「文句しかねえよ! 見ろよあの醤油とわさびの悲しそうな顔!」
「さっきからうるせえ客だな! 食ってから文句言いやがれ!」
「食ってからって、どうせカレーの味しか……ぱくり」
「どうでい」
「……まるでコハダだ! 凄い! このカレー、まるでコハダだ!」
「そうだろう!? そうだろう!? うちの店はすげえだろう!」
「大将!」
「おう!」
「死ね!」
「おう!」


「俺ね、ちょいと悩んでることがあってさ」
「ほう」
「あのー最近ね、どうもね。なんていうか、距離おかれてるっていうか、なんか邪魔者扱いされてる気がするのよ」
「いや気のせいだと思うよそんなの」
「いや、例えばお前とかさ、俺のこと相当邪魔だと思ってるでしょ」
「いやそんなことないよ」
「いないほうがいいと思ってんでしょ」
「そんなことないって」
「俺がいない方が、彼女とデートしやすいとか思ってんだろ!」
「そりゃそうだよ。何でお前二人の甘いひとときに相席してんだ」
「もうそういうのが最近ね、ホント辛くって」
「いやデートに割り込まれたら邪魔だけど、それ以外でそんな風に思ったことないよ」
「嘘つけよもー! いやー! もういやー!」
「扱いづれー」
「じゃあ例えばさ、例えばよ」
「なに」
「俺と彼女が溺れてたら、どっち助ける?」
「それは、彼女かな」
「ほらー! やっぱりほらー!」
「だって仕方ないじゃん俺の彼女泳げないから」
「じゃあじゃあ、彼女が浮き輪持ってたとしたら」
「何で浮き輪ついてて溺れてんだよ」
「どっち助ける?」
「彼女かな」
「いやーん! もういやーん!」
「いや彼女は無理だって、お前では間違いなく彼女には勝てないって。別のものにしろよ」
「うーん、じゃあ、何、お前食べ物で何が好き?」
「食べ物で何が好き?」
「うん、あ、俺以外でね」
「お前に食欲を感じたことはないが、えーと、ブリの照り焼きとか」
「ブリの照り焼き、よし、じゃあもし俺とブリの照り焼きが溺れてたとしたら」
「そしたらお前だよ」
「マジで!?」
「うんもう、ブリ照りが溺れてるイメージが沸かないし」
「え、え、でもブリの照り焼きだよ?」
「うんわかってるよ」
「ブリの照り焼きがお前の彼女の重みで沈んでるんだよ?」
「そしたらブリだわ」
「ほらー! ちょっと気を許したあたいのうつけ!」
「いや、それだと結果的に彼女が溺れてるからだよ。ブリ照りだけが溺れてたらお前助けるよ」
「ブリ照りが溺れてるなんて状況、意味わかんねーだろ」
「ブリ照りが俺の彼女の重みで沈んでる状況の意味を教えてくれよ」
「俺はどうせ、ブリ照り以上恋人未満だよ!」
「大抵の人類はそうだと思うけど」
「もういいわ、諦める」
「何を」
「お前の彼女になるのを」
「今すげーお前と距離を置きたくなった」


「いじめによる自殺が相次いでいるらしいけども」
「うん」
「何で止められないかね、先生ともあろうものが」
「いや自殺を止めるのは難しいと思うよ」
「いや簡単だよそんなの」
「じゃあ俺自殺しようとするから、お前止めてみろよ」
「いいよ」

「くそうもういじめには耐えられない、死のう」
「あ、おい!」
「しまった、見つかった!」
「何やってるんだ!」
「来るな!」
「もう休み時間は終わってるぞ」
「事の重大さ! 状況見ろよ、自殺しようとしてんだろ!」
「あ、お前、自殺だと! 馬鹿なことは止めろ!」
「来るな、来たら……」
「来たらどうするつもりだ」
「来たら、飛び降りてやる!」
「よし、じゃあ先生は階段で降りるから先に教室行っててくれ」
「近道じゃねえよ! 死ぬために飛び降りるんだよ!」
「死ぬだって、何で死のうとか思うんだ!」
「先生は知らないかもしれないけど……俺、いじめられてたんだ」
「なんだって」
「毎日無視されて、殴られて、弁当捨てられて、もう耐えられないよ!」
「お前……」
「だから死ぬんだよ! 死んで、俺をいじめた奴を全員呪い殺してやる!」
「馬鹿野郎! 自分勝手なことばかり言いやがって!」
「……」
「お前の命がな、お前だけのものだと思ったら大間違いなんだよ!」
「先生……」
「お前を必要としている人間は山ほどいるんだよ! 第一お前が死んだら、皆は誰をいじめればいいんだ?」
「俺を心配しろよ! 何でいじめっ子目線での説得だ!」
「それにお前、東高校に行きたいんじゃなかったのか?」
「何でそんなこと知ってんだよ」
「先生は何でも知ってるさ、お前が東高校にずっと憧れてたことも」
「……」
「それがうっかりバレて、さんざん馬鹿にされてたことも!」
「じゃあ止めてよねそん時!」
「考え直せ! 自殺なんかしたら、内申書にひびくぞ」
「死んだら関係ねえだろ内申書! ゾンビに受験資格なんかねえよ!」
「東高校に行きたいって、そう思わないのか!」
「もう関係ねーんだよ」
「東高校のほうが校舎も綺麗だし」
「だから関係ねーんだってもう」
「屋上も高いんだぞ?」
「あらま絶好の自殺スポット、オススメてんじゃねえよ! もう死ぬ絶対死ぬ!」
「待て! 待て、聞いてくれ!」
「うるせえ! 俺はもう死ぬって決めたんだ!」
「まあいい、死にながら聞いてくれ」
「難しいこと言うなお前! 微分積分も裸足で逃げ出す難易度だぜ」
「先生な、実は昔、いじめられてたんだ」
「何を今さら」
「お前と同じように、無視されて、殴られて、させられて、させられて、それ以外にも、させられて」
「後半何させられてたのかわかんねーよ」
「だからお前の気持ちはよくわかるんだ!」
「嘘つけよ! じゃあ俺がどんな気持ちで死のうとしてるかわかんのかよ!」
「わかるさ! 先生だって最初は気持ちよかった!」
「俺はのっけから辛かったんだよ! 何いじめられて目覚めてんだ気持ち悪いな!」
「でも先生は負けなかったぞ! 立ち向かったぞ!? お前みたいに逃げなかったぞ!」
「……」
「そしたらな、ある日、ぱっったりと、いじめがなくなったんだ」
「え……?」
「それが、お前が入学してきた日だ」
「俺のおかげじゃねえかよ! 何いじめのおさがりくれてんだよ!」
「だからお前が死んだらまたあいつらが俺をいじめるんだよ!」
「うるせー! お前先生のくせにいじめられてんじゃねえよ!」
「考え直せ! 考え直してくれ!」
「もういいよ死ぬよ! あばよ!」
「お前先生に向かってその口の利き方はなんだ!」
「おせーよ!」


「あのーこれはかなり恥ずかしいことなんだけども、俺さ、ディズニーランド行ったことないのよ」
「マジで!? え、お前何歳だっけ」
「今年二十三歳」
「ディズニーランド行ったことないのに!?」
「いや関係ないだろ」
「だって、いないだろその歳でまだ行ったことないやつ」
「まあ確かに、皆行ってるよね」
「行きたいと思ったことはないの? 行かずに正気を保っていられるの?」
「どんだけだよ。たかが遊園地行かないだけで情緒不安定にならねーだろ」
「いやいやいや、人間の三大欲求じゃん」
「嘘つけよ。三大欲求は食欲と性欲と睡眠欲の三つだろ」
「違うよ。性欲とミッキー欲とマウス欲の三つだよ」
「何で三つのうち二つも占めてんだよ。ミッキー欲とマウス欲の違いって何だ」
「ミッキー欲がディズニーランドに行きたいけど眠いなあ、という欲求」
「マウス欲は?」
「ディズニーランド行きたいけど、腹減ったなあ」
「食欲と睡眠欲じゃねえか結局。勝手に本能をディズニーでコーティングするなよ」
「わからずやだなあ。じゃあ、俺がお前にディズニーランドの良さを説明してやるよ」
「ああ、じゃあ頼むよ」

「いらっしゃいませこんにちわー!」
「コンビニクオリティの接客だけど大丈夫かな、大人一枚」
「かしこまりましたー、こちらチケットの方温めますかー?」
「何の気遣いだ。秀吉リスペクトもほどほどにしろよ。普通でいいからさ」
「ご一緒にポテトはいかがですかー?」
「いらないよ。チケットだけくれってば」
「かしこまりました少々お待ちくださいー」
「はいはい」
「お待たせしましたチキンナゲットのお客様ー」
「え」
「チキンナゲットのお客様ー、お待たせしましたー」
「すいません、頼んでないです。チケットを」
「チキンナゲット略してチケットとさせていただいておりますが」
「ディズニーランドの入り口でチキンナゲット頼む奴がどこにいんだよ。
チケットっつったらチケットだよ、入場券のことだよ」
「あ、その発想はございませんでしたー」
「今までみんなナゲットもらって納得してたのか」
「でしたらお客様、チケットの方少々お時間かかりますので」
「ええ?」
「番号札をお持ちになって中でお待ちくださーい」
「中、中って?」
「ディズニーランドの中でお待ちくださーい」
「入って良いのかよ」
「できましたらお呼びいたしますので、チキンナゲットをがっつきながらお待ちくださーい」
「いやたぶん取りに来ないけど、入って良いなら入るよ」

「やあ少年!」
「……」
「少ー年! 君だよ君!」
「あ、僕ですか」
「そうだ君だよ、冷めたチキンナゲットを持った少年!」
「まあ温めなかったしな」
「今日はディズニーランドへようこそ! 楽しんでいってくれよ!」
「あの、誰ですか」
「俺かい? 俺は名乗るほどのマウスでもないさ!」
「ミッキーマウスか。想像とかなり違うな」
「もしかして君は初めてのディズニーランドかい?」
「あ、はい」
「その年で?」
「ええ、まあ」
「ハハハッ! じゃあそんな厄介な客のために用意されたマニュアルどおりに、愉快な仲間たちを紹介するよ!」
「本音出てっぞ着ぐるみの間から」
「まずあそこでうなだれてるのが、犬のグーフィーだ!」
「はしゃげよ勤務中ぐらいグーフィーよ」
「そしてあそこで頭を抱えてるのが、ミニーマウス」
「おい夢の国よ」
「そしてあそこで足を抑えて転げまわってるのが、ドナルドダックだ!」
「何で全員病んでんだよ。子供達引くだろ」
「お、ドナルドがこっちを見てる、手を振ってあげよう!」
「何でこっちが愛想ふりまかなきゃいけないんだ」
「あ、チキンナゲットは隠した方がいい」
「材料アイツかー」
「どうだい、お世辞にも楽しいだろう?」
「着ぐるみが本音に負け始めてるよ」

ぴんぽんぱんぽーん
『お客様のお呼び出しを申し上げます。先ほどチケットをお買い上げのお客様、至急入り口までおこしください』

「すいませんお待たせしました。こちらチケットになりますー。夢の国をお楽しみくださいー」
「いやもう、帰ります」


「テニスの放射能」第八話

「というわけよ!」
「キィィィイィ! 私のサーブによもやそのような欠陥があるとは!」
「とにかく、これであなたの亜光速サーブはもう使えない!」
「くっ、小娘がっ、必殺技の一つや二つ、破ったくらいでいい気におなりでないよ! 天才ってのはね、天才ってのはね! その場に応じて新たな必殺技を生み出すものなのよ! くらえ! 新・亜光速サーブ!」
ドブスッ!
「なっ! これは!」
「オーッホホホホホホ! どうかしら新・亜光速サーブの味は!」
(さすがだわ便津さん)(瞬時に新しい必殺技を生み出してしまうなんて)(まさにビッグ・必殺技館!)
「もう一発いくわよ、そぉらっ!」
ドブスッ!
「こっ、このサーブは! 新・亜光速サーブとはまさか!」
「気づいたようね! そう、名前を変えてみただけよ! あなたは自分の中にある新・亜光速サーブに踊らされていただけ!」
「卑怯!」
「卑怯? 卑怯ですって? 口を慎みなさい! これぞまさに天才の機略! 現にあなたは新・亜光速サーブを返せなかった……。私は何も努力をしてないのも関わらずね!
努力なんて凡人の徒労よ! 努力なんて愚者の逃げ道よ! 努力なんて敗北の言い訳よ!」
「違う! 努力は……努力は……! 努力こそ真の勝利を生むのよ! 努力せずに得た勝利なんて、偽者だわ!」
「ハハハ! 凡人らしい詭弁ね! いつでも! どこでも! 好きなときに! 全力疾走できない凡人の考えそうなことだわ!」
「歩く努力をしないものが、走れるものか! 見せてあげるわ、私の努力によって生み出された必殺サーブ!」
「受けてあげる! そして砕いてあげる! あなたの努力とともにね!」
「喰らえ! ギャラクシー・インパクト・サーブ!」
ドブスッ!
「何ッ!?(見えなかった!!)
あなた……まさか!」
「そう、どうかしらご自分の亜光速サーブの味は!」
(あの新入生!)(一目見ただけで便津さんの亜光速サーブを!)(しかも名前まで変えて!)
「ふんっ、小賢しい盗人め! 天才の知恵を借りないと何もできないのね! ハハハ!」
「勘違いしないで……今のはただの点数稼ぎ、本当のギャラクシー・インパクト・サーブは、これからよ!」
(なんてレベルの高い試合かしら!)(鳥肌が止まらない!)(何よりあの二人)
(((まだ一つもボールを使っていない!!)))
「さあ、見せてあげるわ……本当のギャラクシー・インパクト・サーブを!

くらええええええ!!」
(!!!!)

(何も起らないわ)(でも確かにスマッシュの音は聞こえたのに)(ボールはどこ!?)
「…ハッ、ハハハッ。何よ、こけおどしじゃない! 所詮凡人は凡人……「あ、あれを見て!」「何あれ!」「どうなってるのあれ!」
何ッ!? あれ、は……もしかして……?」
(なんてこと!)(こっちに来るわ! 近づいてる!)(月が! 月が動いてる!)
「まさか、これはあの伝説の……!
便津さん、逃げなさい!!」
「何よ。慌てふためいちゃって……天才が、天才が逃げるなんて、そんなみっともない真似、できる、わけ、ない、じゃない!!」
(受け止めた!)(ラケット一つで月を!)(でも押されてる!)
「こんな、こんなサーブぐらい、か、返せ、返せないわけが!!」
(無理よ……便津さん!)
「返せないわけが、ないいい!!」
「なっ……!」
(う、打ち返した!)(つ、月が)(月が元の位置に戻っていく……)

「アウト!

勝者、チェル野ブイ美!」

「やったぁああーーー!」
「やったねブイ美!」
「負けた……天才の私が……負けた……」
「おめでとう、ブイ美さん」
「部長!」
「そして、テニス部にようこそ!」
「ありがとう! ゲノ夢部長!
あ……便津さん……」
「今回は負けとくわ、でも、でも次は絶対に勝つ!」
「……はいっ!」
(素晴らしい試合だったわ)(そうね、でも)(結局、ボール一個も使わなかったわね)


??「あたしは諦めないからね、ブイ美!」


「テニスの放射能」第七話

勝負当日。

「あーら、また性懲りも無く来たのね。逃げ出しちゃうのかと思ったわ!」
「今日は、勝ちに来ました!」
「ふん、言うようになったじゃない。口だけは成長したようね!」
「便津先輩、ウォーミングアップを「いらないわ!
天才に、努力なんて不純物でしかないのよ!」
「……そんなの、間違ってます」
「でかい口は、このサーブを返してから叩きなさい!」
(出るわ!)(便津さんの)(亜光速サーブ!)
「そらっ!」
(ふふっ、やっぱり動けない! 所詮素人は素人
ドブスッ!
「なっ!」
(え?)(何が起ったの?)(亜光速サーブが)(返された!?)
「ぐ、偶然よ! (そうよ! この必殺サーブが返されるなんてこと)
そらっ!」
ドブスッ!
「ぐっ……! どうして!」
「便津さん、あなたは気づいてないかもしれないけど、そのサーブには致命的な欠陥があるわ!」
「な、なんですって!」


「テニスの放射能」第六話

「なんなんですか部長、あたしなんかに……」
「テニス部には、入らないの?」
「え、だって、あたし、負けちゃったし、それに、才能もないし」
「そう……あなたを勧誘しに来たのだけど、見込み違いだったようね」
「ど、どうして、どうしてあたしなんか!」
「あなたのその額の傷」
「あ、これは、その、うっかり強化ガラスにパチキを……」
「ふふ、嘘ね。それは明らかに動物の爪あと……そして服の上からでもわかる、背筋の異常な発達……
この夏休み、そうとう訓練したみたいね」
「は、いや、これは、あの……」
「したいんでしょう? テニスが」
「いえ……」
「悔しいんでしょう? 負けたのが」
「……」
「勝ちたいんでしょう? 便津に!」
「………」
「……素直になれないと、また後悔するわよ。でもまあ、無理にとは言わないわ。やる気のないものなんて必要ないのだから「やります!!」
「私、テニスがしたいです! 誰にも負けたくない! 便津さんにも、部長にも! でも……」
「でも?」
「一つ、条件を出してください。もう一度だけ便津さんと勝負して、そして、もし勝てたら、私を入部させてください」
「いいのかしらそんな条件を出して、もし負けたらもう二度と」
「負けません!」
「!!ッ」
「ブイ美のブイは、Victoryのブイですから!」
「ふふ……おもしろい子。いいわ、やらせてあげましょう!」
「ありがとうございます!」
「お礼なんて良いのよ。それより早く行かないと二学期終わっちゃうわよ?」
「あっ! いっけない!」


「テニスの放射能」第五話

「……美…イ美……ブイ美!」
「はっ! あ、人間(ひと)み……」
「よかったー! もう目を覚まさないのかと……」
「あ、あの、部長、あたし…」
「あなたは、負けたわ」
「そっか……
痛っ!」
「どうしたの?」
「え、何コレ、あたしのガンホルダーに画鋲が……誰がこんなことを!」
「便津さんよ」
「便津さんが!?」
「勝ったくせに嫌がらせで追い討ち……ここまでできて初めてエリートプレイヤーとなれるのよ。
あなたにはそれができて?」
「……私は…」
「今日は帰りなさい。もう一学期が終わるわ。」

………。

「おっはよ! ブイ美!」
「あ、うん、おはよ」
「なんだ、まだこないだのこと引きずってるの? もう二学期なんだし、忘れなよ!」
「うん……」
「待ってたわ、ブイ美さん」
「ゲノ夢部長!」
「ちょっと、いいかしら」
「え、でも」
「先生、この子お借りしますわね」
「え、部長、ちょっと、部長ー!」


「テニスの放射能」第四話

(便津さんが)(便津さんのテニスが見られるわ)(あの小娘、死ぬわよ)
「じゃ、私のサーブからね……そらっ!」
ドブスッ!
「み、見えない!」
(出たわ、便津さんの亜光速サーブ)(あの子ったら一歩も動けないわね)(当然よ! あのサーブを返せるのは部長ぐらいのものだわ!)
「どうしたのかしら、あたしたちの球は遅いんじゃなくって?」
「ぐっ……」
「そらっ!」
ドブスッ!
「見えない……! どうして、どうして見えないの!!」
「アーッハッハッハッハ! 当然よ! まだ私は一球も打ってないもの!!」
「じゃあ、あの音は」
「アフレコよ!」
「!!!!」
「アーッハッハッハッハ!」

………。

「ふう、私も大人げなかったわね、そうだ、あなたにハンデをあげるわ」
「なっ、ハンディ……!」
「そうよ、勝負は拮抗しないと面白くないもの、どんなハンディがお望み? 片手? 片足?」
「……じゃあ、お言葉に甘えて……。
『呼吸』を先にした方が勝ちよ!!」
(なんですって!)(呼吸!?)(あの子、ただものじゃない)(便津さんは受けるのかしら)(私たちは新たなテニスの黎明に立ち会ってるのかもしれない……!)
「受けて立つわ、つまり、それ以外のときは全部私の勝ちということね」
「!! (大丈夫、大丈夫よブイ美、呼吸さえすれば勝てるんだから、そう呼吸さえすれば……でもどうして、勝てる気がしない!)」
「さあ、試合再開よ」
「(呼吸)(呼吸)(呼吸)(息を吸って…吐く)(吸って……)(吐く)(吐く?)(息を吸わなきゃ、吐くのが先?)(吐く)(吐、吐、吐く)」
ヒュー…ヒュー…ヒュッ
「ブイ美!!」
「いけない、呼吸困難に陥ってる!」
「アハハッ! 普段やっていることを意識すればするほど人間はそれが出来なくなるのよ!
策士策に溺れるといったところね!」
「負け……た……」


「テニスの放射能」第三話


「ブイ美さんって、言ったかしら?」
「はい!」
「あなたに興味が沸いたわ、上がりなさい」
「え、でも、私にコートに上がる資格なんて」
「あなたの実力が知りたくなっただけよ、さっ、怖いの?」
「……いえ! やります!」
「そうこなくてはね」
(ここが…ペプ高の、テニスの名門ペプ高のコート……公式のものより狭い、そして空気が薄い…こんなところで……! あら、向こうにもう人影が、あれは……?」
「便津さん!」
「悪いわね部長、あたしにやらせてもらうわ」
「ドイツからの帰国子女なおかつ六年連続全銀河対抗機動テニス大会準優勝、さらにその暴力的なテニスから「喧嘩テニス」の異名を持つ孤高の天才プレイヤーのあなたがじきじきにやるとわね……どういう風の吹き回し?」
「ふふ、なんてことはないのよ、ちょっと私もこの子に興味が沸いただけ、それに……」
「……」
「こういう子が大っ嫌いなのよ! いくわよ、新入生!」
「お願いします!」


「テニスの放射能」第二話

「すごい……ラリーが早すぎて向こうの景色が歪んで見える……!」
「………」
「どうかしら、あれがうちの二軍のエースよ」
「二軍! あれで二軍ですか!?」
「そうよ……まだまだ球筋が素直でいけないわね、あら、そちらのお嬢さんはどうしたのかしら?」
「あ、ブイ美ったら、凄すぎて呆けちゃってるみたいで「遅い……」
「え?」
「………面白いことを言うわね、二軍とはいえ球速だけなら一軍に匹敵するのよ」
「はっ、いや、そんな、たぶん私の勘違いです、すいません失礼なことを……!」
??「言ってくれるじゃない小娘」
「あなたは!」
「あなたは!?」
「あなた……! この部の人間じゃないわね」
??「フフ……さすが部長さん、洞察力だけは大したものね」
「その指の先の夥しいタコ……あなた、囲碁部ね!!」
??「アーッハッハッハッハッハ!」
「部外者は立ち去りなさい!」
??「そうさせてもらうわ!」


「テニスの放射能」第一話

ウップス! あたしチェル野ブイ美! 今年の春から東京都立帝政ペプシヶ丘高等学校に通うことになった、ピッチピッチの十七、八歳よ! でも入学式の初日から教頭先生の静脈につまづいて校長先生の前頭葉を踏んづけちゃったりで大目玉! っはぁ……あたしってなんでこんなドジなんだろう……

「ブイ美!」
「きゃんッス!」
「どしたの? 浮かない顔して」
「うん……ちょっとね」
「らしくない! ペプ中の不沈艦の名が泣くぞ! あ、そうだ、ね? あたしと一緒に部活見学行かない? ブイ美はどこ見に行くの? 中学のときテニス部だったからやっぱりテニス部?」
「うん、だって私からテニスを抜いたらただのタンパク質だもん」
「そうこなくっちゃ! テニスコートは千葉よ!」

………。

「へぇ~ 広ぉい……」
「ここのテニス部は銀河屈指の猛者が集うオカルト教団だって有名なのよ」
「へぇ~ コートもお布施で?」
「うん、あと不明瞭な国家予算は全部この
「あら? 見学かしら?」
「は、はい!(綺麗な人……!)」
「東京都立帝政ペプ高のテニス部部長、超池 ゲノ夢よ
ゆっくり見学してってね、ちょうど今部内対抗リーグ戦をしてるところだから」
「え、幸運の極み! 見に行こうよブイ美!」