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■前略、路の上より

車。

仮免を取得したもので、結構前からもう路上に出ているのだけど、ずっと抱いていた「僕に車を運転する才能が無い」という疑念が確信に変わった。どう考えても生まれてくる時代を間違えてしまった、ここまで車が普及してしまって「免許持っているのが当たり前」のような世の中では「けっ、車なんてアメリカの乗り物、馬鹿らしくて乗ってられっかい! 男は黙って赤ふんどしにセグウェイ一丁じゃけぇっぽい!」とも言えない。

まず僕は、めちゃくちゃ頭が固い。あるものを「これはこういうものだ!」と思い込んだらまずそれを曲げようとしない。他人がその認識を曲げようとしてきたならさらに大きな力で曲げ返してついには元の位置に戻してしまい、そこから動こうとしない。メトロノームだったら非難の第九で武道館が満員になったことだろう、人間で良かった。母親の好みが「リズム感」に偏っていたら、父親がメトロノームだった可能性も否めないわけで、そういう意味ではお母さんありがとう。

そんなわけで頭の硬度という点では冷水にひたしたガムと良い勝負の僕にとって「路上」とは、徒歩あるいは自転車に乗っているときに認識する路上以外何者でもないのだ。信号はある程度なら無視できるし、巻き込み確認、制限速度、進路変更、そんなものとは無縁の路上をずっと認識してきた、まして標識なんてものは超人が武器に困ったときに引っこ抜くために置いてあるもので、その数字や記号に意味があるなどと思ったことがない。

つまり僕を路上に出すということは、ライオンを幼稚園に放すことと同義なのだ。後者ならまだ勇気ある年長組が、懐にすべりこんで喉元をごろごろやればライオンも懐くかもしれないが、僕の場合そうはいかない。僕は一つの、大きな、意志を持たない、鉄の塊になるのだ。スティール・ボール・ラン。右に曲がるも左に曲がるも風次第、全ては「全て」が教えてくれるのさ、僕はハンドルを持っているだけでライク・ア・ローリング・ストーン、廻すのは僕じゃない、君さ……

「あのね、三村君ね。横からハンドルもらうこと、あるけどね。これじゃまるで、僕が運転してるみたいだからね。次はもう少し、頑張ろうか」

アイム・ソーリー

2006年11月27日 22:46


■ドリーム腐れ

寝癖。

最近寝癖の野郎が調子に乗り始めた。今朝起きると前髪の右半分が上にハネ、左半分が横にハネていた。何が悲しくて髪の毛で起きた時間を表現しなくてはならないのかと、九時ちょうどをお知らせする己のSEIKOちゃんカットを泣きながらUNOでスタイリング。今まではせいぜい髪がちょこっとハネている、だった程度のものがまさかの大学デビュー、四年目にして頭上から春の息吹。

とはいえ、前髪が寝癖でもって起床時刻をお知らせするのだとわかれば、起きる時間を八時二十分にすれば対処できるし部位も前髪だけなのでそこまで大した問題でもない。問題なのは、これと同レベルのブっ頓狂な寝癖が様々なバリエーションでもって毎朝僕の枕元に届けられているということだ。前髪が時計になったかと思えば、揉み上げが両方同じ高さまで捲れ上がっていたり前髪が額に対し垂直に伸びその先にモズが餌を刺していたりある時など髪の毛が固まって電球の形になっていたので「とうとう閃いちまった!」と友人に己の寝癖を写メールにしたため送ったところ「殺されたくなかったら死ね」というふつおたを頂いたり。

もうこうなってくると寝癖は不可避の事件なのではないかという気さえしてくる。これはもう運命なのだ。因果なのだ。だとすれば抗うだけ時間の無駄である、まずは寝癖を受け入れるところから始めねばならない。常に寝癖とともに。しかし寝癖だけでは不自然なので、パジャマと枕とスリッパとよだれを標準装備で歩くことにしよう。これならただのウォーキングドリーマー、この世はあぶくのような夢なのだ、それを寝癖という技法でもって表現する歩く前衛芸術。しかし天才はいつの世も理解されにくいものできっと僕を非難する人間も出てくるだろう「パジャマで歩いてるよあいつ!」「スリッパ片方しか履いてねーじゃん!」「枕の内側から血の染みが!」そんな野暮には、その場で狸寝入りだ。

2006年11月25日 22:32


■ラブミーっつってんだ

「俺ね、ちょいと悩んでることがあってさ」
「ほう」
「あのー最近ね、どうもね。なんていうか、距離おかれてるっていうか、なんか邪魔者扱いされてる気がするのよ」
「いや気のせいだと思うよそんなの」
「いや、例えばお前とかさ、俺のこと相当邪魔だと思ってるでしょ」
「いやそんなことないよ」
「いないほうがいいと思ってんでしょ」
「そんなことないって」
「俺がいない方が、彼女とデートしやすいとか思ってんだろ!」
「そりゃそうだよ。何でお前二人の甘いひとときに相席してんだ」
「もうそういうのが最近ね、ホント辛くって」
「いやデートに割り込まれたら邪魔だけど、それ以外でそんな風に思ったことないよ」
「嘘つけよもー! いやー! もういやー!」
「扱いづれー」
「じゃあ例えばさ、例えばよ」
「なに」
「俺と彼女が溺れてたら、どっち助ける?」
「それは、彼女かな」
「ほらー! やっぱりほらー!」
「だって仕方ないじゃん俺の彼女泳げないから」
「じゃあじゃあ、彼女が浮き輪持ってたとしたら」
「何で浮き輪ついてて溺れてんだよ」
「どっち助ける?」
「彼女かな」
「いやーん! もういやーん!」
「いや彼女は無理だって、お前では間違いなく彼女には勝てないって。別のものにしろよ」
「うーん、じゃあ、何、お前食べ物で何が好き?」
「食べ物で何が好き?」
「うん、あ、俺以外でね」
「お前に食欲を感じたことはないが、えーと、ブリの照り焼きとか」
「ブリの照り焼き、よし、じゃあもし俺とブリの照り焼きが溺れてたとしたら」
「そしたらお前だよ」
「マジで!?」
「うんもう、ブリ照りが溺れてるイメージが沸かないし」
「え、え、でもブリの照り焼きだよ?」
「うんわかってるよ」
「ブリの照り焼きがお前の彼女の重みで沈んでるんだよ?」
「そしたらブリだわ」
「ほらー! ちょっと気を許したあたいのうつけ!」
「いや、それだと結果的に彼女が溺れてるからだよ。ブリ照りだけが溺れてたらお前助けるよ」
「ブリ照りが溺れてるなんて状況、意味わかんねーだろ」
「ブリ照りが俺の彼女の重みで沈んでる状況の意味を教えてくれよ」
「俺はどうせ、ブリ照り以上恋人未満だよ!」
「大抵の人類はそうだと思うけど」
「もういいわ、諦める」
「何を」
「お前の彼女になるのを」
「今すげーお前と距離を置きたくなった」

2006年11月24日 14:56


■ウンストッパボ

「いじめによる自殺が相次いでいるらしいけども」
「うん」
「何で止められないかね、先生ともあろうものが」
「いや自殺を止めるのは難しいと思うよ」
「いや簡単だよそんなの」
「じゃあ俺自殺しようとするから、お前止めてみろよ」
「いいよ」

「くそうもういじめには耐えられない、死のう」
「あ、おい!」
「しまった、見つかった!」
「何やってるんだ!」
「来るな!」
「もう休み時間は終わってるぞ」
「事の重大さ! 状況見ろよ、自殺しようとしてんだろ!」
「あ、お前、自殺だと! 馬鹿なことは止めろ!」
「来るな、来たら……」
「来たらどうするつもりだ」
「来たら、飛び降りてやる!」
「よし、じゃあ先生は階段で降りるから先に教室行っててくれ」
「近道じゃねえよ! 死ぬために飛び降りるんだよ!」
「死ぬだって、何で死のうとか思うんだ!」
「先生は知らないかもしれないけど……俺、いじめられてたんだ」
「なんだって」
「毎日無視されて、殴られて、弁当捨てられて、もう耐えられないよ!」
「お前……」
「だから死ぬんだよ! 死んで、俺をいじめた奴を全員呪い殺してやる!」
「馬鹿野郎! 自分勝手なことばかり言いやがって!」
「……」
「お前の命がな、お前だけのものだと思ったら大間違いなんだよ!」
「先生……」
「お前を必要としている人間は山ほどいるんだよ! 第一お前が死んだら、皆は誰をいじめればいいんだ?」
「俺を心配しろよ! 何でいじめっ子目線での説得だ!」
「それにお前、東高校に行きたいんじゃなかったのか?」
「何でそんなこと知ってんだよ」
「先生は何でも知ってるさ、お前が東高校にずっと憧れてたことも」
「……」
「それがうっかりバレて、さんざん馬鹿にされてたことも!」
「じゃあ止めてよねそん時!」
「考え直せ! 自殺なんかしたら、内申書にひびくぞ」
「死んだら関係ねえだろ内申書! ゾンビに受験資格なんかねえよ!」
「東高校に行きたいって、そう思わないのか!」
「もう関係ねーんだよ」
「東高校のほうが校舎も綺麗だし」
「だから関係ねーんだってもう」
「屋上も高いんだぞ?」
「あらま絶好の自殺スポット、オススメてんじゃねえよ! もう死ぬ絶対死ぬ!」
「待て! 待て、聞いてくれ!」
「うるせえ! 俺はもう死ぬって決めたんだ!」
「まあいい、死にながら聞いてくれ」
「難しいこと言うなお前! 微分積分も裸足で逃げ出す難易度だぜ」
「先生な、実は昔、いじめられてたんだ」
「何を今さら」
「お前と同じように、無視されて、殴られて、させられて、させられて、それ以外にも、させられて」
「後半何させられてたのかわかんねーよ」
「だからお前の気持ちはよくわかるんだ!」
「嘘つけよ! じゃあ俺がどんな気持ちで死のうとしてるかわかんのかよ!」
「わかるさ! 先生だって最初は気持ちよかった!」
「俺はのっけから辛かったんだよ! 何いじめられて目覚めてんだ気持ち悪いな!」
「でも先生は負けなかったぞ! 立ち向かったぞ!? お前みたいに逃げなかったぞ!」
「……」
「そしたらな、ある日、ぱっったりと、いじめがなくなったんだ」
「え……?」
「それが、お前が入学してきた日だ」
「俺のおかげじゃねえかよ! 何いじめのおさがりくれてんだよ!」
「だからお前が死んだらまたあいつらが俺をいじめるんだよ!」
「うるせー! お前先生のくせにいじめられてんじゃねえよ!」
「考え直せ! 考え直してくれ!」
「もういいよ死ぬよ! あばよ!」
「お前先生に向かってその口の利き方はなんだ!」
「おせーよ!」

2006年11月15日 19:20


■プレジデン党

あらすじ:原因不明の右足の痛みに耐えながら何とかバイトをこなした。

さて、右足の痛みは治まるどころか動いたせいでさらにその勢力を増し今や靴と足の境を陽炎わせるほどに肥大。足手まといなゾンビといった歩き方をしている僕をさすがに心配してか、マスターが「足を見せてみろ」と言う。言われるがままに生まれたままの足をさらけ出すと、くるぶしの横に、も一つくるぶしが。

さては右くるぶしと左くるぶしの野郎、ゴム無しでやりやがったな! とこの三つ目のボーナスくるぶしを眺めながら思っていると「こりゃあ、お前、寝てる間に彼女に三年殺しでもされたんじゃないか?」と、僕に匹敵する診断が下る。「勘弁してくださいよー!」などと言いながらも患部は熱を持ってパンパンに腫れている。押すと痛い。曲げると痛い。歩くと痛い。

「足をひねったり、強く打ったりした記憶はないか?」といわれても全く無い。寝る前までは健康だったし、起きてからはずっと痛いわけで、原因があるとすれば寝ている間だ。確かに寝ている間に三十八度線をまたいでぼりぼりへそを掻くほど寝相が悪いとは言え、足が腫れあがるくらい何かにぶつかったのなら、その瞬間に気づいてもよさそうなものだ。あるいは足で原子力パンチでも打とうとでもしたのだろうか? どうせ本丸にいいところを持ってかれるくせに? この謎を解くヒントがマジかるタルるーとくんしか無いあたりで、やはり原因は依然「虫にでも刺されたんじゃないか?」

「虫ですか?」
「うん、毒もってる虫なら腫れあがるぞ」
「虫って、ムカデとかですか?」
「いやもっとごっつい奴じゃないと、こんなに腫れんだろ」
「もっとごっついやつ?」
「そう、もっとごっつい。ごっついムカデ、とか」
「ムカデじゃないですか」
「んー、じゃあもう原因はあれしかないな」
「何ですか?」
「三年殺し」

不明。

2006年11月14日 12:05


■ジョンDEレノン

朝起きると、右足が不可解に痛い。

立つと痛い。体重をかけると痛い。右足でぴょんぴょん飛び跳ねると痛い。万力でくるぶしをギリギリ締め付けても痛い。試しに内側に足首を捻ると、途端に痛覚が一粒一粒立ってこれはもう季節が色あせるくらい痛いヤバいヤバいCry in the Sky.しかし動かないわけにはいかない、とにかくこの日はバイトがある。特に僕のバイトは一度に入る人数が少ない。多くても二人、それにマスターを含めた三人on150という界王拳五十倍が必須項目の死に戦を昼場の忙しいときは展開しないといけない。休むわけにはいかない。

幸いハイカットを履きクツ紐でがっちり固定すると多少痛むながら早歩き程度はこなせるぐらいに復調する。いける。なんてったってあたしはスーパーモデル、今年の秋冬コレクションに身を包んだあたしのキャットウォークを見に、各界から大勢の著名人が来るのだもの……フンッ! 著名人だなんて、ふんぞり返っちゃってさ! 小気味良く揺れるモデルの胸と脚目当てでランウェイにかじりつくしか能のない俗物どもがさっ! けどあたしは違う、あたしはこのランウェイで蝶になるの! 違う長島茂雄の愛称じゃなくてパピヨンの方の、あ痛いッ! これは……! 画鋲! さてはあたしの才能をねたんだ、初枝の! 初枝の仕業ね! けどあたしはにんなことで負けるわけにはいかないの! ここで諦めるぐらいならゴリラにラリアットされた方がマシよ! って、ちょっと、何やってんの! 冗談に決まってるじゃないこのクソゴリラ!

というわけで後半二時間ぐらいはオリジナルシングル「涙目とガニマタと私」を無差別リリースしながら何故だか屁も止まらない、見るに見かねたお客様が僕の運ぼうとしているコーヒーを取りに来てくれたり、使用済みのおしぼりとかゴミを纏めて渡してくれたりで、なんていうかこの店と客とバイトがまさに一体になったグルーヴ感? バイト? とか? お客様? とか? そういう、なんつうの、ボーダー? みたいなのが? なくなった、て、ま、そういうの? ジョン・レノンが見たら多分さ、こういう世界が理想だったって言うんだと思うよ? そしたら? いつもの口調で、いつもの歩調で、いつもの仕草で俺に近寄ってさ? んで、言うんだ「代わりに運ぼか」

Imagine..

2006年11月13日 21:46


■わ~い、胡麻

お茶のCMがムカつく。

お茶は大好きだ。しかし売り物としてのお茶には常に黄信号を向けている。お茶なんてものは茶葉を取り出してその芳香を嗅いではエキサイト嗅いではエキサイト、気が済んだところでお湯を沸かしお茶を煎れ立ち昇るお茶の香りを嗅いではオルガスム嗅いではオルガスム一口飲んだらもうエクスタシー、ここまででお茶のはずだ。これら一連の流れをもって「お茶」なんだ。それを既に誰がどこで何回エクス達したかわからないお茶をペットボトルに詰めて売る。こんなものがお茶と言えるかどうか。

それでいて何かのフォローのように無駄に和風で荘厳な久石かつ譲っぽいBGMに載せて「茶葉へのこだわり」だの「独自の製法」だの「自然抽出」だの並び立てる。いくら何を言ったところで量産される高級ペットボトル茶なぞより、それらを味分ける上等なタンの持ち主の方が貴重って時点でフェアなトレードとは言えない。つまり、大多数にとってそれらは普通のお茶に過ぎない。つまりは僕らは、騙されている。市川海老蔵の、あの、頭に生えてるシュリンプ一本一本が僕達を嘲って反り返っているのがバレないように、奴は坊主なのだ。

しかし高級量産茶は増え続ける。相変わらずのイメージ戦略でもって、僕らの購買欲を蹴り上げる。それはそうだこの事実が国民に知れ渡ってしまえば全国のお茶フリークたちは一斉蜂起し「テメェこのオイ、お茶! お茶コラァ! オイ! お茶! 出てこいテメ、オーイ! お茶ァ!」の大合唱、もはや「お~い、お茶」などと悠長に構えてはいられないだろう、しかし! もう既に僕というジャンヌ・ダルクがこの世に生を受けてしまった、覚悟するがいいお茶業界、貴様らの欺瞞を暴き、この世に正当なお茶の価値観を蘇らせてみせよう。ここからお茶革命は始まるのだ、さあ武器を取れ国民よ、そして進軍し、速やかに伊藤園を蹂躙するのだ! さあ同志よ! 今こそ革命の、さあ! ちょっと! 聞いてる? ねえ? ねえったらちょっと、ちょっ、お~い。

2006年11月12日 00:55


■桃汁

さわやかもも水。

北朝鮮と核戦争になったとき困らないよう非常清涼飲料水としてさわやかもも水を買った。コンビニでジュースを買うのがあまりにも久しぶりだったのでテンションが上がってしまい、レジ横おでん鍋の空いてるスペースに拳を突っ込んで「どれでも七十円です! どれでも七十円です!」と絶叫、近づいてきた奴に熱々のげんこつを食らわせるという大技を店員に止められた。

さわやかもも水。さぞかしさわやかなもも水なんだろうと浮かれる気分で地殻がえぐれるくらいスキップしながら家に帰り、開口一番もも水を流し込む。ごくりごくりとリズムが鳴ってもも水がほてった体に流れ込んでくる。

冷たい。

しかし、さわやかではない。何故だ。さわやかもも水を飲んでいるはずなのにさわやかさが一向にこみ上げてこない。これは騙されたのか、僕はあの店員にまんまとしてやられたのだろうか。やはりあの時、止められたとはいえ強引にでも僕のメリケンがんもをぶち込んでおけば、いや、今からでも間に合う! おでんつゆを買いに走ろうとする僕の足に、さわやかもも水が当たる。

ひんやりとした感覚が、末端から中枢へ集まってくる。恐る恐るさわやかもも水に触れてみる。冷たい。底から冷えるような冷たさがある。僕はさわやかもも水をたまらず抱きしめた。きんりんきんりんと耳の後ろがとがっていく様な冷たさが体中を駆け巡る。これか、そうか。僕は、てっきり飲んだ者がさわやかになるものだと思い、彼自身のさわやかさを忘れていたんだ。こんなことで彼からさわやかさを感じれる筈がないじゃないか。そして一心不乱にもも水を抱きしめてYes,打ち明けてBoy,してみせてTonight,今夜二人で秘密の熱交換。分かり合えた、ようやく僕はもも水と分かり合えた! 今ならきっと、本当のさわやかもも水を理解できる気がする。コップに注がれるもも水は、心なしかさっきよりピーチ……一気呵成にもも水を流し込み、ごくりごくりとリズムが鳴って

ぬるい。

2006年11月10日 22:34


■ソフトバンク強盗

「銀行強盗に行こうと思うんだけどさ」
「ちょっと待て」
「銀行員に何突きつけたらビビると思う?」
「いやその前に、バイト感覚で強盗行くのはどうかと思うんだけど」
「ピストルじゃビビらないと思うんだよね、今日び」
「いやビビるよ、ていうか強盗するなよ」
「逆に、ジャンプの創刊号とか突きつけたほうがビビりそう」
「何でだよ」
「レアすぎて、多分超ビビる」
「ビビるの意味が」
「ワンセグとかビビるかな、ちょっと古いかな」
「新旧の問題じゃないぞ」
「カメラ付き携帯! 駄目だな」
「いやだから新旧の問題じゃ」
「白い磁石!」
「珍しいけど」
「金色のクーピーペンシル!」
「黄土色っていう意見もあるよ」
「超長いレシート!」
「何買ったんだよ」
「全部練炭」
「七輪買えよ」
「指名手配の写真! 俺の」
「あのね」
「これ俺。これ俺、つって」
「読者モデルのノリだけどさ」
「指名手配写真で見るよりカッコいいですね、とか言われたらどうしよう俺!」
「自首すればいいと思う」
「指名手配写真の依頼が殺到してさ」
「自首しろよ」
「写真集出すんだ、指名手配写真の」
「誰か気づけよその前に。指名手配ってことの意味を」
「売れたらどうしよう、マジで、平積みになって、ベストセラーになって、うわー銀行強盗って儲かるな!」
「そうだな」

2006年11月08日 23:29


■ディズニーランドへ

「あのーこれはかなり恥ずかしいことなんだけども、俺さ、ディズニーランド行ったことないのよ」
「マジで!? え、お前何歳だっけ」
「今年二十三歳」
「ディズニーランド行ったことないのに!?」
「いや関係ないだろ」
「だって、いないだろその歳でまだ行ったことないやつ」
「まあ確かに、皆行ってるよね」
「行きたいと思ったことはないの? 行かずに正気を保っていられるの?」
「どんだけだよ。たかが遊園地行かないだけで情緒不安定にならねーだろ」
「いやいやいや、人間の三大欲求じゃん」
「嘘つけよ。三大欲求は食欲と性欲と睡眠欲の三つだろ」
「違うよ。性欲とミッキー欲とマウス欲の三つだよ」
「何で三つのうち二つも占めてんだよ。ミッキー欲とマウス欲の違いって何だ」
「ミッキー欲がディズニーランドに行きたいけど眠いなあ、という欲求」
「マウス欲は?」
「ディズニーランド行きたいけど、腹減ったなあ」
「食欲と睡眠欲じゃねえか結局。勝手に本能をディズニーでコーティングするなよ」
「わからずやだなあ。じゃあ、俺がお前にディズニーランドの良さを説明してやるよ」
「ああ、じゃあ頼むよ」

「いらっしゃいませこんにちわー!」
「コンビニクオリティの接客だけど大丈夫かな、大人一枚」
「かしこまりましたー、こちらチケットの方温めますかー?」
「何の気遣いだ。秀吉リスペクトもほどほどにしろよ。普通でいいからさ」
「ご一緒にポテトはいかがですかー?」
「いらないよ。チケットだけくれってば」
「かしこまりました少々お待ちくださいー」
「はいはい」
「お待たせしましたチキンナゲットのお客様ー」
「え」
「チキンナゲットのお客様ー、お待たせしましたー」
「すいません、頼んでないです。チケットを」
「チキンナゲット略してチケットとさせていただいておりますが」
「ディズニーランドの入り口でチキンナゲット頼む奴がどこにいんだよ。
チケットっつったらチケットだよ、入場券のことだよ」
「あ、その発想はございませんでしたー」
「今までみんなナゲットもらって納得してたのか」
「でしたらお客様、チケットの方少々お時間かかりますので」
「ええ?」
「番号札をお持ちになって中でお待ちくださーい」
「中、中って?」
「ディズニーランドの中でお待ちくださーい」
「入って良いのかよ」
「できましたらお呼びいたしますので、チキンナゲットをがっつきながらお待ちくださーい」
「いやたぶん取りに来ないけど、入って良いなら入るよ」

「やあ少年!」
「……」
「少ー年! 君だよ君!」
「あ、僕ですか」
「そうだ君だよ、冷めたチキンナゲットを持った少年!」
「まあ温めなかったしな」
「今日はディズニーランドへようこそ! 楽しんでいってくれよ!」
「あの、誰ですか」
「俺かい? 俺は名乗るほどのマウスでもないさ!」
「ミッキーマウスか。想像とかなり違うな」
「もしかして君は初めてのディズニーランドかい?」
「あ、はい」
「その年で?」
「ええ、まあ」
「ハハハッ! じゃあそんな厄介な客のために用意されたマニュアルどおりに、愉快な仲間たちを紹介するよ!」
「本音出てっぞ着ぐるみの間から」
「まずあそこでうなだれてるのが、犬のグーフィーだ!」
「はしゃげよ勤務中ぐらいグーフィーよ」
「そしてあそこで頭を抱えてるのが、ミニーマウス」
「おい夢の国よ」
「そしてあそこで足を抑えて転げまわってるのが、ドナルドダックだ!」
「何で全員病んでんだよ。子供達引くだろ」
「お、ドナルドがこっちを見てる、手を振ってあげよう!」
「何でこっちが愛想ふりまかなきゃいけないんだ」
「あ、チキンナゲットは隠した方がいい」
「材料アイツかー」
「どうだい、お世辞にも楽しいだろう?」
「着ぐるみが本音に負け始めてるよ」

ぴんぽんぱんぽーん
『お客様のお呼び出しを申し上げます。先ほどチケットをお買い上げのお客様、至急入り口までおこしください』

「すいませんお待たせしました。こちらチケットになりますー。夢の国をお楽しみくださいー」
「いやもう、帰ります」

2006年11月06日 19:17


■癌告知ネタ

case1
「先生、はっきりおっしゃってください、私の病気は、癌なんでしょうか……!」
「たけしさん、落ち着いてください。ただの風邪です」
「ほ、本当ですか?」
「ええ、しかし一口に風邪といっても色々ありまして」
「はあ」
「たけしさんの風邪は少し珍しい風邪でして、このレントゲンを見てください。ここに影がありますね。」
「はい」
「これが風邪の腫瘍です。まあしかし症状はほとんど風邪と一緒で時折咳や痰に血が混じったりする程度のもので、まあ、癌のようなものだと思っていただいて結構です」
「先生!」

case2
「先生、はっきりおっしゃってください、私、癌なんでしょう?」
「たけしさん、落ち着いてください」
「でも、このレントゲンにははっきりと影が!」
「影があるからといって癌とは限りません、いいですか、順を追って説明しますよ。この部分が胃袋なんですが、これを「妙子」と名づけます」
「妙子?」
「便宜上、妙子と名づけます。妙子には「ゲン」という一人息子がいまして、これが最近不登校なのです」
「いや、あの」
「妙子はゲンを何とか学校へいかそうとしますが、ゲンは自分の部屋から出ようとしません。この、大腸の部分に引きこもってしまうわけですね」
「はあ」
「大腸の部分に引きこもってしまったゲンを大腸ゲンと呼びます」
「大腸ゲン」
「妙子も最近大腸ゲンにうんざりしているので、ご飯を差し入れたりしなくなりました。つまり放っとくと死にます」
「え!」
「大腸ゲンを放っとくと死にます」
「先生!」

case3
「先生、はっきりおっしゃってください、癌だと!」
「たけしさん、落ち着いてください」
「しかしレントゲンにははっきりと影が写ってるじゃないですか!」
「とりあえずこのレントゲンを他人のものだと思ってみましょう」
「他人のもの」
「あなたの嫌いな上司のレントゲンだと思ってみてください、どうです、ぶっさいくでしょう」
「あ、そういわれてみれば」
「見てくださいこの肋骨の辺りなんか大爆笑です」
「あはは、本当だ、肋骨だけに六本あったり!」
「でしょ、マジウケるでしょ! しかもこの大腸のところの影!」
「なんでしょねこの影、黒子ですか? これ黒子ですか? 顔だけじゃなくて体にも黒子ですか!?」
「あっはっはは! これ黒子じゃないんですよ、これ、癌なんですよ!」
「ええー! ちょっとマジですかそれ、かわいそー、超かわいそー」
「あははは! 棒読みじゃないですか! 癌なんですよ? 死ぬんですよ?」
「いい気味だ、あははは!」
「いい気味とはなんですか!」
「は、え」
「人の命が、消えようとしているんですよ、それをあなた、いい気味はないでしょう!」
「あ、すいません、はい」
「もっとまじめに考えてください、自分の体のことなんですよ!?」
「先生!?」

case4
「癌だろ!?」
「落ち着け」
「だって影が!」
「落ち着いてよく見てください、少しレントゲンがぶれてるでしょう」
「あ、本当だ」
「こういっては何ですが、撮るのに失敗してしまいまして」
「あ、じゃあこの影はそのせいなんですね」
「いや、この影のでかさにびっくりして失敗したんですけど」
「ちょっと!」
「こんなひどいの見たこと無くてね」
「先生! それってやっぱり!」
「大丈夫です。時にたけしさん、奥さんの写真などお持ちですか?」
「あ、妻のなら、あの、恥ずかしいんですけど、プリクラなら」
「あ、これは、あー、素敵な奥さんじゃないですか、ねえ」
「いや、ははは」
「いや、本当に、綺麗だし、大事にしないと駄目ですよ?」
「ええ、それはもう」
「じゃ、プリクラはこの癌のとこ張っときましょうね」
「先生! 今、癌って!」
「癌じゃないでしょう、奥さんのプリクラですよこれは!」
「癌に張ったんでしょプリクラ!」
「あなた自分の妻を癌呼ばわりか! そんなだから癌になるんだ!」
「やっぱ癌じゃねーか!」

2006年11月04日 21:16


■すめらギン

天皇。

天皇ってよくよく考えるとこれほど面白い生き物もいないと思う。象徴象徴と言われ、つまりは生まれたときから「日本国」の象徴とされているような状況。自分が生まれたときに「お前は秒針の象徴だよ」と言われたとしたら「ああ、もう少し落ち着こう」とでも思えるものだが「日本の象徴だよ」といわれた日にはもう何が何だかわからない。曖昧然としすぎているのだ。おそらく小学校でも「お前の父ちゃんシンボリックー!」などといわれたり「じゃあえーと、桃太郎が背中に刺してる日本一の旗の役は……」「せんせー! 明仁くんがいいとおもいまーす!」といったいじめにあったりもしただろう。

しかし天皇家の跡取りがいじめにあって、という話も一切聞かないので、そういう環境におかないかあるいは皇太子さまと喋っている友人の前頭葉が規定値を超えて活動し始めたら「いじめ」と見なし射殺するゴーグル部隊が常に皇太子の胸ポッケに入っているか。とにかく皇族の私生活は謎に満ちている。謎に満たされていると言った方がいいか、彼らが普段何をしているのか皆目検討もつかない。

きっとテレビもかなりの制限された状態なんだろうと思う。そうでなくてはいけないだろう。「やりすぎコージー」なんか見て「ああ、俺こんなのの象徴なんだ」となってしまっては夜の皇居窓ガラス壊して回った挙句、盗んだ牛車で走り出してもおかしくはないのだ。故にテレビは生きもの地球紀行かクローズアップ現代、バラエティもドレミファドン以外一切映らないような状況なのだろう。天皇の目を盗んで深夜のエッチな番組を見ようとしてもすめらギッシュナイト(ビキニの推古天皇がプールサイドでぶどうを踏む番組)が映るばかりだ。

見てえなそれ。

2006年11月04日 21:15


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